こんにちは。
とあるメーカーで貿易実務に関わって20年超の神高(かんだか)です。
メーカーや商社で貿易実務に関わっていると、船便だけでなく、航空便(英語: air freight )による輸送が必要となる場面がありますよね?
しかし、正直なところ、ぼくのような海上輸送を主な仕事としている実務担当者は、空輸の細かい点まで詳しくないし、経験も少ないものです。
作法が違う、とでも申しましょうか。
航空輸送 (カタカナでそのまま、エアーフレートと呼ぶことも)を使うケースで最もありそうなのは、納期遵守(のうきじゅんしゅ)の問題が発生したときでしょう。
早く客先に届けないと契約不履行(契約書内の約束を破ること)になってしまう、といったケースはやむを得ず、航空便を使うこともあります。
つまり、多くの場合、「急に必要」となります。
少し時間があるときに一緒に仕組みや利点、注意点などをみておきましょう。
ちなみに、英語「 air freight 」は「航空運賃(航空貨物運賃)」という意味で使われることもあります。ちょっと、ややこしい(笑)。
乙仲(フォワーダー、通関業者)などが単に「フレート」と呼ぶときは、「輸送」ではなく、たいてい「運賃」の意味ですから、そのことも憶えておきましょう。
航空便 air freight を使えるのは、まずは書類、サンプル品などの小さいもの
非常に少量の貨物、書類やカタログなどであれば、航空便を使うのが便利です。
運賃は多少上がるとしても絶対的な金額が小さいですし、海上輸送では紛失してしまう危険もあります。
また、書類の場合、DHL、FEDEXなどのいわゆる「クーリエ = courier 」サービスを使うとタイムリーに貨物の居場所を追うことができます。
大量の貨物をさばいているため、頼めば書類専用の封筒、厚紙ケースなどはクーリエの会社が配布してくれる。
航空便は船便( sea freight )に比べるとどうしてもコストがかかる
航空便を選択する時、最も躊躇する理由はやはり、そのコストの高さです。
例えば、日曜ビッグバラエティでは、「アドニス号はコンテナ1本を約30万円で運ぶ」と紹介されていたと記憶しています。
確かに、日本から欧州まで船でコンテナを運ぶと、荷役その他でその程度はかかります。
しかし、これは別の記事でも触れているように20フィートコンテナ(約2mx2mx6m)、重量にして最大30トン(コンテナのサイズや仕様、陸送の制限などで異なります)の運賃がその程度です。
京間7畳のワンルームマンションに最大約30トンの荷物を詰め込んで、それを丸ごとヨーロッパまで運ぶ運賃、と考えてみましょう。
すると、逆に「その程度で運べるのか!?、純粋な海上運賃だけだと意外と安いな」という感覚を一般の方は持たれるのではないでしょうか。
一方、航空運賃はどうなるのか、です。
海上輸送と異なり、同じA地点からB地点に運ぶにしても、便数とキャパシティ(運べる重量や容積)がそもそも船便よりも小さいので、多分に「時価」の要素が強くなります。
また、2mx2mx6m、30トンもある貨物は航空機の貨物室に入らないため、そのような量をまとめて運んではくれません。
航空輸送のサイズ制限の一例を紹介します。
さすがに大手だけあり、綺麗にまとまっています。
1m x 1m x 1m、250キロの貨物を日本(大阪)から英国(ヒースロー)まで空輸したケースを見積したことがありますが、概ね20フィートコンテナ1本( FCL ) を海上輸送するのと同じ程度の金額が出てきました。
ケースバイケースながら、その程度の運賃はあり得るでしょう。
航空貨物の運賃は感覚をつかみにくいので、ぼくは時々、旅客機との比較で考えるようにしています。
あくまでイメージですが、パレット一つ運ぶのに、LCC ではない航空会社で大人が一人~三人が旅行(往復)する程度の金額はかかる、という感覚を持っています。
もちろん、最近は価格破壊のようなチケットもあるので、一概には言えないのですけれど……。
もし、最初の運賃の見積がそれより高いようであれば、時間的な制約がある中での荷役手配になるとしても、相見積(あいみつもり、2社以上の金額を比較すること)をした方が良いでしょう。
直送とトランシップ(積み替え)の両ケースで比較検討していけば、ほとんど到着日が変わらない、かつ安価なサービスを見つけられる可能性があります。
航空貨物は船荷証券( Bill of Lading = B/L )が発行されず、AWB となります
航空貨物に対しては、海上輸送貨物でおなじみの 船荷証券 = Bill of Lading = B/L が発行されません。
代わりに、Air Waybill = エアーウェイビル(ウェイビルとも)が航空会社(あるいはフォワーダー=混載業者)から発行されます。
形式はほぼ船荷証券と同一で、Shipper、Consignee、Notify Party などを荷主の希望通りに記載してもらえます。
ただ、船荷証券と異なり、ウェイビルには権利証券の機能が初めから無いため、裏書譲渡したり、銀行に担保として差し入れることはできません。
契約書内で取り決めをして、ウェイビルを決済に使用するのは当事者の自由ですけどね
先ほど申し上げたように、荷主は1分1秒でも早く荷受人に貨物を引き取ってもらうために高い費用を払ってまで、航空輸送を使うわけです。
ですから、多くの場合、譲渡や裏書、L/C 決済など、悠長なことをする時間はありません。
だから、航空貨物は荷受人がすぐに貨物を引き取れるようになっているのです。
通関手続きは必要ですが、基本的には Consignee 欄に書かれた人物、団体であることを証明すれば貨物を受け取れます。
また、ウェイビルはそのような性質の書類なので、原則として信用状( = L/C )取引には使われません。
ただ、例外がないわけではなく、航空便を用いた信用状取引も実際は行われていて、ぼく自身も経験したことがあります。
航空貨物は荷物と船積み書類一式は、同じ飛行機で運ばれます
三国間貿易の解説記事で、売主から販売店に売却する価格を買主(エンドユーザー)に知られてはいけません、と説明したことがあります。
ただ、航空貨物にはそれを誘発してしまう落とし穴があるのです。
それは、「特別に運送業者に指示をしなければ、貨物と船積書類一式(Air Waybill、インボイスなど)が貨物と一緒に運ばれる」という点です。
航空貨物の場合、これは非常に重要なポイントです。
というのも、特に指示しなければ、本来は販売店向けに用意した、販売店との仕切り価格を記載したインボイスが荷受人の手に渡ってしまうことを意味するからです。
したがい、三国間貿易の際には、乙仲業者、航空会社に「Air Waybill 以外の船積み書類は輸出通関に使った後、いったん我々に返してください。貨物に添付してはいけません」と明確に指示することが大切です。
まとめ:空輸( air freight )が一般的な業界、商品もあります
今回の記事を簡単におさらいしておきましょう。
コストよりも鮮度やその他の商売上の理由から、日常的に航空貨物を使って輸送する業界もあります。
高級な果物、ワイン、その他高付加価値の食材を空輸するケースなどがそれにあたります。
ただ、機械メーカー、家電、素材などを扱う商社などで働く方は、そのコストの高さ故に、あまり航空貨物を扱う機会は多くないでしょう。
しかし、メーカーや商社に勤務していても、航空貨物を使わなければならない場面は突然やってきます。
そして、おそらくそれほどハッピーな状況ではありません。
原則を理解し、仮定した条件で見積もりを取っておくなど、いざという時に備えておくと安心できます。
最後に一つ、おまけで実務に役立つ商慣習の知識をお伝えしておきます
航空輸送と海上輸送では、一般的に、インボイスやパッキングリストに記載する寸法、重量の単位が異なります。
海上輸送は、単位に m (メートル)と t (トン)を用います。
一方、航空貨物の場合は kg (キログラム)と cm (センチメートル)を用いることが多いです。
航空貨物であっても、mやtで荷姿を記載したパッキングリストも使えないことはありません。
ただ、運送業者の担当者を混乱を避けるため、慣例に従った単位で記載する方が無難でしょう。
それから、危険物、可燃物を空輸しようとしている人には、こちらの記事が参考にしてください。
原則、危険物や可燃物の空輸はできないので、どうするか、というお話です。