こんにちは。
とあるメーカーで20年以上、貿易実務を担当している神高(かんだか)です。
職場の若い仲間から、「燻蒸証明(英語では certificate of fumigation、サーティフィケート/オブ/フミゲーション )ってどうやって取るんですか」との質問をもらいました。
燻蒸証明とは、木製の梱包資材(こんぽうしざい)が燻蒸(くんじょう)されていることの証明です。
貨物を輸出入する際、木材による梱包材に害虫が入り込むことを防ぐための煙、熱による「いぶし」のことを、貿易に関わる業界では「燻蒸処理(くんじょうしょり)、フミゲーション」と呼びます。
ある程度のサイズの貨物、あるいはパレットが必要な貨物を運ぶときには、その証明がされた(スタンプが押された)木材を使う必要があります。
段ボール梱包を主に扱う貿易実務の担当者は、なじみがないかも知れませんね。
今回は燻蒸証明の基本的なところと、回避法を一緒に整理しておきましょう。
※ なお、「燻蒸証明書」という書類はありません。木材に直接、スタンプが押されて証明されます。
中国、韓国など、燻蒸証明(fumigation)を求める国は数多い
先ほども述べた通り、貨物を輸出(輸入)するときに、木材梱包材に害虫が付着するのを防ぐために、煙で「いぶす」ことを「燻蒸(くんじょう)」と呼びます。
輸入国の水際作戦ともいえる措置で、日本はもちろん、EU(ヨーロッパ諸国)、北米、カナダ、近いところでは中国、韓国などでルールを定めています。
必要な国は、植物検疫所がまとめてくれていますよ
「厚さ6ミリ以上」の木材梱包材、つまりパレット、木箱、木枠、サポートなどに使われるすべての木材が対象となります。
このルール、長年、貿易実務に関わっていると、なんとなく適用はヨーロッパから厳しくなっていく印象です。
もちろん、他国が追従することもありますし、独自のルールを定める国もあります。
貿易実務に関わる人であれば目にすることがある略称 ISPM (INTERNATIONAL STANDARDS FOR PHYTOSANITARY MEASURES, 植物検疫措置に関する国際基準)というルールがもとで、その中でも No.15「国際貿易における木材こん包材の規則」が、消毒方法や実施済みの表示等の細かいことを定めています。
参照先:農林水産省
原文はこちら。最後のあたりに、木箱梱包に関わる人にはおなじみ、貨物に押されるスタンプの例が紹介されていますよね。
なお、貿易実務の担当者として関わるのであれば最初から全部を理解する必要はありません。
とりあえず、梱包業者と打ち合わせができる程度に背景を知っていれば十分です。
べニア(LVL合板)と段ボール(トライオール等)は対象外
貿易実務に従事しているなら、ルールの基礎の理解とともに、この点に注目してください。
べニア(プライウッド、Plywood、略して LVL = Laminated Veneer Lumber とも呼ばれます)や段ボール(商品名のトライオールも一般的に使われています)による梱包は、燻蒸が不要です。
これらの略称は、実は商品名だったり、厳密には違うものだったりしますけど、貿易実務者は「梱包のプロ」ではないのでイメージでOKです。
「べニアを使うと燻蒸証明は要らない」という点が重要です。
べニアは薄い木材をバームクーヘンのように重ねて接着したものなので、木材でも虫が入らない、と判断されます。
同じ梱包材が使えるので、通い箱(かよいばこ=往復便に使う入れ物)にもできます。
以前はこの種の特殊梱包はかなりコストが高くつく印象でしたが、ベニヤや強化段ボールの価格もかなり下がっている印象。
たとえるなら、「週末ドライバーなら、自家用車を持つよりレンタカーやタクシーの方が安い」のと似たようなことになっている可能性があります。
特殊梱包は高い、というバイアス、先入観が抜けないまま(実は、ぼくもそうですが)、世の中は変わってきているかも知れません。
あなたの扱う貨物でも、ベニヤや強化段ボールが使える可能性があります。
燻蒸処理は(fumigation)二種類の熱処理が基本
詳しく知る必要はないと申し上げましたが、梱包業者からもらう見積書や請求書の中身に書かれることもあるので、少しだけ「熱処理」について触れておきます。
熱処理では、牛乳の殺菌方法(高温、低温)のように二種類あります。
一つは、木材を加熱室(炉)に入れ、長時間、加熱する方法( HT )。
もう一つは、誘電加熱(電子レンジみたいなもの)で短時間、加熱処理する方法( DH )です。
他にも、薬剤を用いる方法もあるようですが、ぼくはあまりなじみがありません。(どうやら、臭化メチルを用いるようです)
いずれも、処理後は、国際基準に沿った「承認マーク」が木材に付けられます。
先ほどの ISPM の資料の最後のページにあるマークですね。
これにより、その梱包材は燻蒸されたことが証明されます。
まとめ:燻蒸処理(fumigation)は輸入側も気にしています
今回の内容をまとめておきます。
輸出梱包に対応している梱包業者は死活問題なので、燻蒸(くんじょう)に関する各国のルールをよく勉強されています。
特に、海外にいくつも拠点を持つような取引先(顧客)を抱えている業者は、日常的に貨物の取扱量が多いため、経験値も高い傾向があります。
結果として、たとえば中国のどこそこの港は検査の目が厳しい、といった細かいノウハウもお持ちです。
ですから、新しいアイデアをもらいたいのであれば、質問をしていきましょう。
「輸入通関の検査で止められるくらいなら、最初からトライオールで出しましょう」といった提案がなされたりもします。
梱包形態は、一度確立してしまうと、なかなか変わるものではありません。
しかし、たまに業者さんと話をしてみることで、あなたもコストダウンや改善提案のネタが見つかる、かも知れませんからね。
最後に。
もし、あなたが貿易実務に関わって日が浅い人であれば、この記事だけは読んで帰ってください。
一人でも「ちょっとの工夫で避けられたはずのデマレージ」で悩む人を減らしたいんです。