こんにちは。神高(かんだか)です。
職場の後輩から「 CIP の意味や使い方を教えて欲しい」と頼まれました。
貿易実務で使われる用語・略語に INCOTERMS (インコタームズ)の「 CIP = Carriage and Insurance Paid To、キャリッジ アンド インシュランス ペイド トゥ」があります。
ICC(国際商業会議所)が、「コンテナ船や飛行機による輸送の際には CIF に代えて CIP を使いましょう」と推奨している略語でもあります。
今回は、そんな CIP について、一緒にみていきましょう。
なお、INCOTERMS 2020(インコタームズ 2020)の書籍をベースにプレゼン資料(パワーポイント)を作っているので、必要に応じてダウンロードしてご利用ください。(パスワードは”busitable”です)
CIP (シーアイピー)の意味|インコタームズ2020
定義: CIP は「 Carriage and Insurance Paid To 」を略した INCOTERMS です。
ここで、おのおのの言葉は、このようなイメージで理解しておいてください。
- Carriage = 運賃。コンテナ船輸送なら船社、航空便なら航空会社に払う費用。
- Insurance = 保険。輸送の途中に事故や貨物の損傷があった時にお金が払われる。
- Paid To = 費用と支払うこと。ここでは「運賃」と「保険」
ざっくり言えば、CIF の代わりとなるべきインコタームズで、日本から貨物を輸出するのであれば、「保険を掛けた上で、仕向地(しむけち、輸入する国)の双方で取り決めた場所に納入したら、売主の責任は終わり」という条件です。
ICC が発行した英語版の INCOTERMS 2020 の解説書にはこう書かれています。
この後、「場所をできるだけ詳しく指定しましょう」といった説明が続きます。
文章だけではわかりにくいので、あとで実例を出して説明します。
CIF の知識があるなら、CIP ≒ CIF、と理解しておいてください。
FOB や FCA と対比させて、「メインの輸送を担う船や飛行機の運賃、保険を売主が負担する」と理解しておくことが最も重要です。
それでは、具体的な使い方をみていきましょう。
CIP (シーアイピー)の使い方|インコタームズ2020
契約書や船積書類(インボイスなど)に書く時は、CIP の後に「貨物を受け渡す場所」を続けるのが作法です。
CIF の場合、「 CIF SHANGHAI, CHINA 」など習慣的に港自体、あるいは都市名を書いている人が多いのではないでしょうか。
ただ、CIP を含む新しい7つのインコタームズに関しては、具体的な場所を書くように ICC(国際商業会議所)から推奨(レコメンド)があります。
例えば、大阪から上海までコンテナ船で輸出するとしましょう。
その場合、「売主が運賃を負担する上海の CY = Container Yard や CFS = Container Freight Station まで書きましょう、というのが ICC(国際商業会議所)の推奨なのです。
自社の倉庫や工場でコンテナに入れ、FCL(コンテナ1本全部)を上海まで輸出する場合には、以下のように書きます。
貨物を出す港の情報、ここでいう「大阪」はこの記述の中では出てきません。
上海のコンテナヤードまでの費用と保険を売主が負担、その時の販売金額が USD 12,000.- 。
こういった情報が、この一行で表されています。
数千万円、数億円単位の取引であっても、この表記は同じです。
ちなみに、CIF であれば、一般的に「 CIF Shanghai Port, Japan: USD XXX, INCOTERMS 2020」といった書き方になります。
CIP で面倒に感じるのはこの点かな。「CY か CFS かなんて、後から変わるかも知れないじゃん」ってね。そんなときは「 Shanghai CY/CFS 」と書いておきましょう。このスラッシュ(/)は or と解釈されます。
一般的な英文の中で「 … boys/girls 」みたいに使うのは、 and か or か分からないので避けるべきですが、貿易実務の界隈ではたいてい「 or 」を意味するので船積書類でも広く使われています。
さて、それでは、 CIP の輸入通関は「誰」が負担するのでしょうか?
CIP (シーアイピー)の輸出入通関|インコタームズ2020
2020年版の ICC の解説書「Export/import clearance 」欄では、CIP は以下のように明記されています。
ざっくり訳すと「CIP は可能な場所での輸出通関を売主に課しています。しかしながら、」ということになります。
このあたりは、貿易に少しでも関わっていればイメージしやすいと思います。基本、CIF や CFR の関係と同じです。
CIP (シーアイピー)と保険、そして危険負担
CIP の解説では以下の通り、「売主が掛けなければならない」と明記されています。
ざっくり訳すと「(CIPは)売主が貨物の紛失や損傷が補填される保険を掛けなければなりません。範囲は(国内の)納入場所から、(輸入国の)目的地までです。ただ、海外で掛けた保険を認めない国もありますから、その時は CPT で売買しましょう」ということになります。
倉庫からコンテナヤードなど、日本国内の運送はこの保険でカバーされることもありますし、自社で「 FOB 保険」という国内輸送向けの保険を掛けることもあります。
いずれにしても、無保険のゾーンが出てこないように注意するのが、CIP においては大切です。
CIP (シーアイピー)で船や飛行機を最後に選ぶのは「売主」
CIP の場合、船便や航空便の費用を払うのが「売主」である以上、原則として輸送方法を選ぶ権利は「売主」側にあります。
この点は、ぼくのように会社に勤めなら担当者として輸出入に関わっているとボンヤリしてしまいがちなので、あえて強調しておきます。
仕事に限らず、プライベートでもそうでしょう?
原則として、「お金を払う人が選ぶ」のです。
もちろん、契約自由の原則がありますから、「買主が選べる」「買主が拒否できる」「買主もコメントできる」といった条件が付けられることもあります。
たとえば、「あまりに古い船」「クレーン設備が十分でない船」「特定の国籍の船」などを「買主」が選んだ時は拒否できる、協議できる、といった条件を契約に含めておけば「買主」も船の選択に関与できます。
お金を出す側が選ぶ、といってもボロボロの船を「いや、運賃が激安だったから」という理由だけで選ばれては「買主」側も心配ですからね。
まとめ: CIP は今度こそ知名度を得られるか【20年間、見守っていますが……】
今回の内容をおさらいしておきます。
コンテナ船による輸送でいまだに使われる CIF や FOB を CIP や FCA に変えたい、ということで ICC (国際商業会議所)はいろいろと手を打ってきています。
ただ、CIP や FOB の知名度、憶えやすさ、響きの良さなどから、そのような状況にはなっていません
また、乙仲もそのあたりの事情は分かっていて、CIF は「 BERTH TERM まで考慮された CIP 」と読み替えられて対応がなされています。
乙仲の知人に聞いても、CIP や FCA は当然知っていますが、流通している B/L はいまだに CIF や FOB が主流だ、と聞いています。
ですから、当分の間 CIF は CIP に読み替えて使われ続けると思います。
たとえば、三井住友海上の外航貨物海上保険のサイトやパンフレットをみても、CIP という記述はあえてされず、CIF などを用いて説明されています。
ぼくが言いたいのは、「だから、問題」ということではなくて、それだけ CIP が知られておらず、実際は CIF と読み替えられて運用がなされている、という点です。
保険会社で「外航貨物海上保険」を扱う営業担当者は、当然、そのような事情を知っていますから、心配であれば相談してみましょう。
どの保険会社も DDP や DAP に対応できるくらいですから、依頼する側が期待するように契約内容をアレンジしてくれます。
結局、無保険の箇所がない状態で取引できるのであれば、深刻な事態にはならないでしょう。
あと、海外営業の立場からすると、形式的なことのために契約書、特に金額に関する部分を再交渉~改訂するのは骨が折れるのでね……。
INCOTERMS より、「契約書」と「商習慣」が「売主」と「買主」の信頼をつくります。
ICC や INCOTERMS が何かを保証してくれるわけでもないので、現実をみながらうまく対応しましょう。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
これからもあなたの仕事がうまくいきますように。
参考:INCOTERMS 2020(インコタームズ 2020)一覧【最新版】
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