こんにちは。
メーカーで貿易実務を20年超やっている神高(かんだか)です。
通関士試験に3科目受験(免除なし)で合格しています。
通関士試験に将来性はあるのか、という疑問をお持ちですか?
今回の記事は、以下のような方にご用意しました。
- これから通関士の勉強をしてみたいと考えている人、迷っている人
- 通関士試験に合格しても役に立たないんじゃないか、と不安な人
- 通関士試験に合格している人
せっかくお越しいただいた「あなた」に、何かの気付きをプレゼントできたら幸いです。
さっそくですが・・・。
小学館が発行している週刊女性セブンの2018年7月5日号 に「通関士の将来性」に関する記事がありました。
「17位」になんと「通関士」の名が挙がっていたのです。
つまり、「通関士には将来性がない、今後は消える」と。
星の数ほどある「仕事」の中から、なぜ知名度の低い「通関士」資格を選んだのか、理由はわかりません。
しかし、「通関士」「通関士資格」に将来性はない、なんて無関係なメディアに言われる筋合いはありません。
たとえば、通関士スキルとその他の知識・経験を組み合わせた「 EPA・FTAコンサルタント」なんて求人がある。
そんな実情を知っていれば、「将来性がない」なんて軽々に書けないはずです。
あくまで、EPA は一つの例ですけどね。
ぼくは、働きながら3科目受験で通関士試験に合格した「経験者」でもあります。
メーカーで貿易実務に関わっている立場から、「通関業者」と「通関業者以外」、それぞれ通関士資格をどう生かせるのか、一緒に考えてみましょう。
通関士試験の難易度についても、本当のところをお伝えできる立場だと自負しています。
基本的に「前向き」な内容なので、心配しないでくださいね。
将来性は、あります。
「通関士資格の将来性」は、求人サイトの募集内容で一目瞭然です
週刊誌の見出しのせいで「通関士資格に将来性はないのかな?」などと、思い悩む必要はありません。
とにかく、求人サイトで検索してみれば、答えはすぐにわかります。
今の募集状況を、たとえば転職情報で有名な doda(デューダ) をリアルタイム(今、この時点)で検索してみましょう。
「通関士」だけをキーワードに検索すると、こちらになります。
こんどは、「通関士 管理」で検索してみます。
記事を執筆している時点(2021年2月7日)で、最初の「通関士」では34件、「通関士 管理」では26件が検索にかかります。
通関士募集の求人だけではなく、有資格者歓迎、あるいは社内で資格取得のサポートが受けられる事例も検索にかかっていることには注意してください。
なかなかの件数ですね。そんなに通関士って募集があるの?と思うかも知れませんが、これには「理由」があります。
職種や業界によって、通関士資格保有者の待遇、選択肢には差がある
検索窓に「通関士」だけで検索すると、通関業者、乙仲、物流会社、船舶管理会社などが多いことに気づきます。
一方、検索ワードが「通関士 管理」となると件数が減り、メーカーや会計事務所なども出てきます。
「物流管理」「関税管理」「管理職」などといったキーワードが検索にかかるからです。
つまり、短絡的に「通関士試験に合格しても、通関士登録ができない、だから活かせない」と考える必要はない、ということです。
詳しく読むと、資格単独でなく、英語や会計、パソコンなどのスキルと組み合わせることで、好待遇も期待できそうだとわかりますよね。
たとえば、ある会計事務所は、「【必須条件】通関士資格」で「関税マネージャー」というポジションを募集していました。
「関税」といっても単純な内容ではなく、減免税や戻し税、保税、FTA、各種規制についてのコンサルタントに就く、とのこと。
たしかに大企業の場合、二国間の FTA を活かしているかどうかで数億円レベルの負担額の差が生じかねないので、専任の担当者やチーム、専門のアドバイザーを置くことは理解できます。
そして、この種の原則や法令の基礎を最も理解し、活用できるのは、通関士資格を持っている人だ、とこの会計事務所は期待してくれているのです。
通関士の資格は、英語、会計、パソコンの知識と相性が良い
求人情報を眺めていて気付くのは、「通関士」の資格は「英語」「会計」「パソコン」などの知識と相性が良い、ということです。
もちろん、ほかの資格やスキルであっても、これらとの組み合わせは有用ですよね。
ただ、「通関士資格」の場合、それぞれが初級、OJT( On the Job Training、実務)で身につく程度、それほど高くないレベルであっても、組み合わせることで力を発揮します。
一つ一つは同僚とそれほど差がないレベルであっても、組み合わせることで強みとなります。
いずれ電子決済化、クラウド化、書類の電子データ化などが進むと予想されます。
特に大企業のグループ会社間、固定のサプライヤー、ディストリビューターは、既に始まっているでしょう。
しかし、世界中の貿易実務のレベル感、先入観が一斉に変わるとは考えにくい。
まだまだ今の仕組み、原則は幅を利かせますし、IT や会計に強ければ、むしろ率先してキャッチアップする側になれます。
通関士として登録し、地方都市の港湾近く、空港近くで長く働く道もあります
もちろん、「通関士として登録して活かす」という道もあります。
地方都市に住み、空港や港にも仕事で通いやすい、という人ならば、選択肢になり得ます。
ぼく自身、岡山という地方都市で働いているなかで通関業者の通関士と打ち合わせなど行うことがあります。
そんな時、通関士はほとんど同じ人です。
何年も異動、人の入れ替えがありません。
つまり、「通関士」は長く続けられる仕事であり、ポジションなんですよね。
長年勤めた「営業」は顧客の窓口としての立場を確立し、「資材・調達」はサプライヤー(協力会社)の窓口としての立場を固めます。
同様に、「通関士」は税関とのやりとりを担うポジションとして、安定した立場を得ることができるのです。
働きながら取れる資格だから、長期的な戦略で臨むこともできます
「通関士」の資格は働きながら取れる資格なので、貿易実務などの職種で経験を積みながら目指す、という長期的な戦略も成り立ちます。
「一般的な事務職を探していたけど、実は英語も仕事で使ってみたい」なんて思いがあるなら、「貿易事務」の仕事はそれほど高いハードルではありません。
具体的な求人情報を定期的に追いかけることで、通関士や貿易実務検定の勉強を続けるモチベーションにもなります。
「たしかに、こうした仕事が世の中で必要とされているんだな」と実感できますからね。
それから、別のメリットとして、通関士の資格は意外と在宅勤務が広がりそうな動きがあります。
この日本郵船グループのニュースにしても、コロナ問題が発生する前、2019年の記事です。
通関士の在宅勤務は、これからますます認められるようになります
通関士の在宅勤務は、これからますます認められるようになります。
というのも、2020年のコロナショックで一気に体制が整えられ、税関も前向きに検討してくれるようになったからです。
もちろん、多くの企業において、最初はコロナ禍を理由とした「特例」「特別措置」でのスタートでしょう。
しかし、中国を含めた他国の IT 化が一気に進むなか、日本がその範囲に留まるわけにはいきません。
政府もコンテナヤードの自動化、無人化などを推進し、予算も付けています。
結果として、通関士は長く続けられ、在宅勤務も可能な職種として、一部から強く支持される職種となるはずです。
あとは、仕事が AI に取られるかどうか、ですが、ぼく自身は懐疑的です。
いくつか、理由があります。
この世界の仕事をAI に奪われるのは、かなり先のはず
昨今、医者、弁護士などでさえ、AI が仕事を奪うかも、と言われるようになりました。
専門性が高くとも、画像処理や書類作成では AI が力を発揮するからです。
たとえば、 Google は病理分野で得られた顕微鏡写真などの画像データを大量に集め続けているそうです。医者の友達が言ってました。
たしかに一つのスキルだけを取り上げて「これは AI でもできます」というのは簡単です。
しかし、貿易のような「はためにはシンプルに見える仕事」でも、実際に貨物が海外から輸出入されます。
オンラインだけで仕事は済みません。
さらに銃や麻薬その他の水際対策(密輸を輸入通関の検査時前後に摘発すること)も考慮される。
そんな状況からすると、税関、貿易実務とそれに伴う通関や書類関係の仕事はきっと残るでしょう。
しかも、オンライン化や省力化が進むにしても、ベースになるのは法律や条約です。
実務的なやりとりは、国を超えて使われてきた船積書類や商取引上の約束事をベースに行われます。
しかも、地域や扱う商品の組み合わせ(商社、メーカーなど)によって細かいルールや作法が違う。
貿易に関する知識は、これからも独立したひとつのスキルであり続けます。
それから、費用対効果、優先順位、という側面もあります。
地方都市の特定の貨物を扱うニッチな仕事まで、AI が仕事を奪いには来ないでしょう?
例外が多すぎて、割に合いませんから。
通関士に登録せずとも、あるいは最悪、すぐに通関士合格に合格できなくとも、貿易とその周辺を学んだこと自体は、きっと長く活かせます。
かなり実地で経験を積んだ人でも、通関士試験の2科目目「関税法」に合格できる人は、そうそういないですよ。 OJT とは違いますから。
最後に、通関士として登録する予定の無かった自分が、なぜ、通関士の資格に挑戦したかについて、お話しましょう。
通関士試験をメーカーに勤務するぼくが受けた理由(わけ)
ぼくの場合、30歳過ぎて専門らしい専門がないことに不安を覚えたので、通関士の試験を受けました。
「専門は貿易実務です」なんて言ったところで、OJT(現場で習得する知識)だけだと一つ一つがバラバラで、貿易実務の知識を応用するにも限界がある、と感じたからです。
しかも、メーカーの貿易実務、海外営業職って、扱う商品(製品)が限られるので、仕事の知識に幅が出ないんですよね。
また、体系的に学ぶことで、広く応用が利くだろう、という期待もありました。
実際、資格試験に向けて取り組むことで、一気に使える用語が増えました。
「他所蔵置」「再輸出免税」「保税運送」などといった用語を Google で検索しようと思えば、単語そのもの、あるいはその周辺の法律やルールを知らないといけません。
だから、通関士試験を受けることにしました。
結局、合格まで4年かかりましたけれど、働きながら学べる難易度ですし、チャレンジして良かったと思えます。
合格率は例年10%前後(甘い年で、せいぜい20%程度)なので、合格レベルに到達できなかったり、1回や2回落ちたからって、くよくよする必要はありません。
とはいえ、通関士試験の準備をしたり、試験内容を調べたりする中で不安になる気持ちはよくわかります。
「通関士」と名乗るには、通関業者に勤めていることが大前提です
「通関士試験に合格しても、使い道が少ないかもなぁ」と思い悩む人の気持ちはよくわかります。
通関士を名乗る(名刺に書く、など)には以下の要件(条件)があるからです。
通関業者ではなくメーカーに勤務している身ですから、「通関士試験に合格しても通関士としては登録できない」とわかっていました。
「通関士資格を取る意味はあるのだろうか?」と、受験を決める前後、そして勉強を続けている日々の中でも感じていました。
最初からお伝えしてきた通り、登録して通関士を名乗らなくても構いません。
貿易、あるいは海外営業、海外調達、あるいは FTA や EPA など、資格試験のために学んだ知識を活かす道はたくさんあります。
「登録しない」ケースまで視野を広げれば、合格者には明るい未来が待っている可能性もあるんですよ。
自分であきらめる言い訳を探しているのかも、と感じたら|まとめ
ここまでの内容をまとめます。
「通関士の仕事がいずれなくなるなら……」なんて、挑戦をあきらめる言い訳を探してしまう気持ちもよくわかります。
ぼくも、試験の準備をしている間は同じでした。
特に、貿易実務(3科目目)が全然ボーダーラインに届かなかった2年目なんて、まさにどん底。
でも、逆にモチベーションにつながる情報に光をあてて頑張る、というやりかたもあります。
簿記にしても英語にしても、働きながら学べる資格試験って、リスクなく次のステップに連れていってくれる特殊アイテムみたいなものですからね。
目先の生活に困っていないなら、じっくりと戦略的に挑戦しましょう。
時間がかかって良いし、実際、どんな分野でもある程度、体系的に学ぶには手間がかかるものです。
「貿易」や「海外営業」、「海外調達」を仕事にする上で、通関士試験に挑戦できるレベルの体系的な知識があれば、大きな自信になります。
結果として、長く働ける(年齢を重ねても社会に貢献できる)なら、素晴らしい人生設計じゃないですか。
勉強に疲れたら、たまに求人サイトを眺めておけば、リアルで現実味のある情報がわかります。
将来性、可能性を知っておくことで、様々な勉強のモチベーションにもつながるでしょう。
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