こんにちは。
とあるメーカーで貿易実務に関わって20年超の神高(かんだか)です。
先日、職場でドックレシート(Dock Receipt)とメーツレシート(Mate’s Receipt)の違いがわからなくなっている同僚を見かけました。
たしかに、コンテナ輸送だけ、あるいはコンテナに入らない大型の貨物だけを扱っていると、その差はわかりにくいでしょう。
端的に言えば、Dock Receipt はコンテナ用、Mate’s Receipt は一般的な貨物船用の B/L の下書きです。
とはいえ、せっかくの機会なので、自分なりにまとめてみました。
Dock Receipt(ドックレシート)とは?|Mate’s Receipt とは違うの?
ドックレシート(Dock Receipt、D/R、ドックレなんて略す人も)はコンテナを使って貨物を輸出するときに使う書類(フォーマット、形式)です。
B/L(ビーエル、Bill of Lading、船荷証券)とそっくり似せた、同じような情報が書かれている書類で、「B/L の下書き」と認識している方もいるでしょう。
実際、その理解で問題はないです。
というのも、船会社も B/L を作成するときにドックレシートをそのまま参照しているからです。
コンテナ船社は、情報の入っていない「ドックレシート」のフォーマットとともに、「 B/L に記載する内容を埋めてください」と依頼してきます。
もちろん、この作業をオンライン入力で済ませる船会社もありますが、目的は同じです。
輸出者(Shipper、荷送人)は、契約書、あるいは信用状(L/C)の要求に合うように、B/L に何をどのように書くか、細かく指定することになります。
大文字、小文字に至るまで、一つ一つ。
その確認を間違いなく行うために、ドックレシートのフォーマットが活用されます。
B/L の形式と揃えているところが、ポイントなんですよね。
たとえば、メール本文で指示すると、見間違い、勘違いのもとです。
Dock Receipt と B/L Draft(下書き) は違うの?
たまに Dock Receipt ではなく、B/L Draft (B/L の下書き)を送ってくる船会社(代理店)もいます。
ドックレシートを使わない。
そっくりそのまま B/L の形式に情報が書き込まれ、DRAFT といったスタンプが入り、サインがない、そんな B/L Draft を最初から送ってくるケースです。
船会社と船舶代理店の間の細かい処理まではわかりませんが、Shipper(輸出者)の立場として、その方式で貿易実務が問題なく進むなら、特に気にする必要はないでしょう。
船会社と代理店の間では Dock Receipt が残っているとしても、Shipper は B/L が正しく出てくるなら、結構なことですから。
実際、一部の船会社では B/L の電子化にも取り組んでおり、従来型の紙ベースの確認も省略されていくと予想されます。
もちろん、書類と貨物の現物が合っている(数やケースマーク、といった基本的な内容を含めて)ことを船会社も確認せねばなりませんから、ステップ自体を省略はできないでしょうが。
Mate’s Receipt とは?|メーツレシート、M/L とも
一方、Mate’s Receipt (メーツレシート、M/L)は一般的な貨物船(在来船)で輸出するときにやり取りされる B/L のもととなる書類です。
コンテナ輸送を主に担当する方は、あまり目にしないかも知れません。
Dock Receipt と仕組みとしては同じです。
ただ、コンテナ輸送は貨物船による輸送よりも「新しい技術」ですから、古めかしい表現や手続きが残っています。
在来船の場合、B/L の記載内容を指示する書類は、 Shipping Application(シッピングアプリケーション、S/A)、あるいは Shipping Instruction(シッピングインストラクション、S/I)と呼ばれます。
Shipper の立場からすると、Dock Receipt と同じく、B/L に記載する内容を書面で伝えるだけのことなのですが、名称が違う。
また、船が貨物を受け取ったことを証する書類 Mate’s Receipt にも、別の名前が与えられてます。
このあたりは、船積の時に貨物を損傷、紛失しやすかった、昔ながらの船の事情もあるのでしょう。
コンテナ輸送になってから、貨物の紛失や損傷、盗難なども劇的に減ったであろうことは、容易に想像できますから。
ちなみに。
通常、輸出者は B/L さえ問題なく出てくれば Mate’s Receipt の存在をほとんど気にしませんが、実はトラブルの時にこそ、目にすることになります。
Mate’s Receipt にリマーク(Remark)が入ると……
Mate’s Receipt は船会社が貨物を受け取った証拠として出される、ということは先に書きました。
で、船が貨物を受け取ったときに損傷や異常(貨物の不足など)があった場合は、Remark(リマーク)と呼ばれる但し書きが Mate’s Receipt に記載されます。
リマークが付くと、やっかいですよ。
というのも、B/L が clean (クリーン、問題なし)でなくなるからです。
当たり前ですが、たいていの契約、信用状(L/C)は B/L がクリーンであることが代金支払いの条件となっています。
つまり、代金回収(支払い)などに支障が生じることになります。
また、保険求償(海上保険を使った救済)を使う場合にも、B/L がクリーンであったかどうかは必ず確認されます。
ただ、輸出者が「良品」だと判断しているのに、船側が「損傷、異常」と判断してリマークを入れようとする場合もあって、これはこれで、ややこしい。
明らかに「損傷、異常」であれば、迷いなく、あきらめて次の対策を打てるのですが……。
梱包の一部が破れている、錆があるように見える、濡れた跡が傷に見える、などなど。
その場合、船会社と協議して、良品であると納得してもらい、Mate’s Receipt にもリマークを入れずに発行、といった経験もありました。
もちろん、船にも出航までのスケジュールがありますから、長い時間をかけるわけにもいきません。
逆に、もめたからといって降ろすわけにもいかず。
この種の対応は、一概に正解はなく、場合によっては荷受人(Consignee)まで巻き込んで、ケースバイケースで対応することになります。
まとめ:Dock Receipt(ドックレシート)とは?|Mate’s Receipt とは違うの?
ここまでの内容をまとめておきましょう。
[roc]
クリーンではない B/L は foul B/L(ファールビーエル)、汚れた B/L とも呼ばれます。
トラブルがないことに越したことはないものの、回数を重ねると、荷役や梱包などに起因するトラブルもあります。
その際に、どう対応するのが正解か。
まさにケースバイケースで、いまだにわかりません。
たとえば、foul B/L でもスムーズに支払いをしてもらえるように荷受人に働きかけて、それでうまくいくなら、十分な解決策でしょう。
あるいは、荷物を受け取る側のスケジュールを最優先で進める旨を合意したり、修理・復旧のできる人を派遣する約束をして対応したり。
貿易実務という響きはルーチンワーク、決まった仕事、という印象を与えますが、意外と予想外のことも起きます。
海外が相手ですから、やっかりでもあり、面白くもあり、過ぎてみれば、やっぱり辛い思い出ではあります(笑)。
みなさん、日々の仕事、がんばっていきましょう。
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さて、この記事を読んでいただいているということは、新しく貿易実務の仕事に就かれた方かも知れません。
その場合、この記事だけは読んで帰ってください。
悪いことはいいませんので。