こんにちは。神高(かんだか)です。
職場の後輩から「 FOB の意味や使い方を教えて欲しい」と頼まれました。
貿易実務の用語・略語に INCOTERMS (インコタームズ)の「 FOB (エフオービーと読みます)」があります。
今回は、FOB について、一緒にみていきましょう。
なお、2019年9月にインコタームズ2020が発表されました。当然ながら、FOB や CIF は残っています。
INCOTERMS 2020(インコタームズ 2020)の書籍をベースにプレゼン資料(パワーポイント)を作っているので、必要に応じてダウンロードしてご利用ください。(パスワードは”busitable”です)
FOB (エフオービー、と読みます)の意味
定義: FOB は「 Free On Board 」を略した INCOTERMS です。
ここで、おのおのの言葉は、このように理解しておいてください。
- Free = フリー = 自由。「そこで、責任が終わる」というイメージ
- On Board = オンボード = 貨物船の上。貨物室や甲板(かんぱん)のイメージ。
- INCOTERMS = インコタームズ = 国際商業会議所の定めた貿易ルール
Free On Board「本船渡し(ほんせんわたし)」と長年、訳されてきた用語です。
輸出通関(税関に輸出の許可をもらう手続き)を含む「物品が本船の船上に置かれる(On board)」までの費用を売主(売る側)が負担する、という条件です。
その筋では、けっこう有名な「本船の手すり (Ship’s Rail)を越えた時」という表現は、2010年版で廃止されました。
せっかくなので、前後のインコタームズをまとめた一覧もご紹介しておきます。
エクセル版なので、適当にダウンロードして使ってください。
クラウド版の Office 365 を使っているので長いアドレスになっていますけれど、怪しいリンクではありません。
次に、使い方を一緒にみていきましょう。
FOB (エフオービー)の使い方
契約書や船積書類(インボイスなど)に書く時は、FOB の後に港の名前を続けます。
例えば、神戸から上海まで貨物を運ぶ(神戸側からみれば「輸出する」)のであれば、
といった書き方をします。(届ける港、ここでいう「上海」は書きません)
このとき、Kobe = 神戸港(こうべこう)= Kobe Port を表していて、「神戸港で積むまでの(国内)運賃を『輸出する側』が負担します。その時の販売金額(売り上げ)は、USD 50,000.- です」ということが、この一行=ほんの数文字で表されています。
数億円単位の取引であっても、この表記は同じです。
FOB (エフオービー)とコンテナ船
FOB はもともと従来からある「コンテナ船が発明される前の一般的な貨物船=在来船(ざいらいせん)」に使うために考案されたルールです。
ですから、CIF と同様、「コンテナ船輸送には使わないでください」と INCOTERMS を考案して普及に努めている「国際商業会議所」は勧めています。
しかし、いまだにコンテナ輸送に FOB を使う事例はたくさんみられます。
その時、コンテナ船輸送に FOB を使った場合、FCA という別の INCOTERMS と同じ、と読み替えらるのが一般的です。
ただ、FCA の場合は、具体的な場所(一般的には、コンテナターミナルの名前)を明記するので、
- FCA Kobe CFS, Japan
といった書き方をしましょう、と国際商業会議所は勧めています。
注)CFS = Container Freight Station = コンテナフレートステーション、荷物をコンテナから出し入れする場所
これであれば、途中に飛行機輸送や陸送(りくそう)が入っても、意味が通じますからね。
とはいえ、実務上は、まだまだ FCA Kobe, Japan という「簡易的な」記載も多くみられます。学校や資格試験と実務は、いろいろ違いますから、あわてないように。
FOB(エフオービー)が CIF よりも使われにくいわけ
FOB は、日本国内向けの宅配便にたとえるなら、「着払い(ちゃくばらい)=荷物を受け取る側が運賃を払う」です。
これが、CIF よりも FOB が「使いにくい」理由です。
たとえば、「運賃と保険を含めて100万円で売る」とお互いに決めたら、売買の合意成立(ごういせいりつ)ですよね。
そのあと、売主(売る方)が安い輸送方法を探して、100万円の範囲内で利益が出るように努力をします。
となると、CIF の方が、何かと自然です。運賃を下げる努力をするのは「売る側」ですからね。
理解を深めるために、もう少し具体的に、CIF と FOB を比較してみましょうか?
FOB (エフオービー)と知名度を争う CIF
FOB とペアで語られることが多い CIF の場合、日本国内の輸送で例えるなら「元払い(もとばらい)=荷物を発送する人が運賃を払う」です。
日本国内でも「着払いにすると問題がある人」「過去に支払いで問題があった人」を相手に「着払い」を引き受けてくれないことがありますよね?
船の運賃は、巨大なだけにその金額も大きい。
たとえば、コンテナであれば数十万円、在来船は数百万円からそれ以上になることもあります。
荷物を受け取る側に少しでも不安があれば、船会社は FOB を断り、 CIF やその他の「運賃を元払い」にする条件を要求してきます。
だから、FOB は CIF よりも使われにくいのです。
(もちろん、価格交渉で客先が CIF を好む、というのも一つの理由です)
FOB (エフオービー)で船を選ぶのは「輸入者」側
ビジネスの原則として、別に契約などで決めていなければ、「費用を負担する側」に、「詳細を決める権利」があります。
たとえば、CIF の場合は、売主 = うりぬし = 輸出する側が船を選ぶ権利があります。
「元払い」だから、あたりまえですよね。
FOB の場合は、まさにその逆で、買主 = かいぬし = 輸入する側が船を選びます。
先ほどの「元払い」との類推からすれば当然のことで、どの運送業者を使うのか、は FOB であれば貨物を受け取る側が決めることがわかります。
ヤフオクやメルカリでも、そうですよね?
「落札者」が着払い&実費負担なら、「落札者」は、念入りに送料を確認してきます。
そうしないと、法外な運賃を請求されるかも知れない。余計なトラブルのもとです。
この原則は、貿易実務を単なる「船積(ふなづみ)」「書類上の事務作業」として行っていると、見落としがちです。
まとめ:FOB (エフオービー)は、CIF 同様に残り続ける
ここまでの内容をおさらいしておきましょう。
商品でもサービスでも、先に普及したものは、なかなか世の中から消えません。
人間は現状を変えたくない生き物なので、今、何とかなっていたら、わざわざ変えないからです。
(これを「現状維持バイアス」といいます)
ですから、CIF と FOB のコンビについて説明したことをフワッと全体的に理解しておけば、長く貿易実務で活かせますよ。