こんにちは。
とあるメーカーで貿易実務に関わりながら、通関士試験に3科目受験で合格している神高(かんだか)です。
ある後輩から「通関士試験に独学で挑戦したいのですが、合格できますか? 」との相談を受けました。
ぼく自身は、4年越しでなんとか独学で合格できました。
第42回試験から受験し、合格は第45回、すなわち2011年の通関士試験。
しかし、この試験、独学は誰にでもすすめられる方法ではありません。
出ていく時間が膨大ですからね。
家族のことを思うと、今でも申し訳ない気持ちになります。
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とはいえ、もし科目免除が使えるなら、ガラッと事情が変わります。
けっこう難しい通関士試験ですが、実は一部科目が免除される制度があります。
しかも、最もハードルの高い3科目目の「通関実務」が免除なのです。
受験案内に書かれてはいるものの、かなり細かい規定なので、あまり知られていません。
そして、通関士試験に3科目受験で挑戦しようとする人にとって「不都合な真実」でもあります。
あなたも「科目免除」の対象者、かも知れません。
ならば、使わない手はないです。
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3科目目だけ、おかしいくらい難しい。
1科目免除なら「別物の試験」です。
それでも、合格は合格、卑下することはありません。
使える制度は使いましょう。
通関業者での通関業務、又は官庁での通関事務が5年以上で1科目免除
税関のHP内にあるカスタムスアンサー(税関手続FAQ)で詳しく説明してくれています。
「通関業者の通関業務又は官庁における通関事務(税関における貨物の通関事務(その監督に係る事務を含む。)をいう。)に従事した期間が通算して5年以上になるとき、通関書類の作成要領その他通関手続の実務 の1科目免除」
とあります。
通関士試験の場合、特定の大学や修士、博士を出ているから免除、といった制度ではありません。
何故か、箇条書きの順番を他の資料と変えているのでわかりにくいものの、間違いなく、「通関書類の作成要領その他通関手続の実務」は3科目目の「通関実務」を指しています。
通関士試験では、この3科目目が最も「やっかい」です。
もし、あなたが通関業者、あるいは通関事務にかかる官庁にお勤めで、通関業務に5年間以上従事されているならば、この特典を使わない手はありません。
勤め先に指定の形式の証明書に署名してもらい、さっそく次の通関士試験の準備をすすめましょう。
通関士試験の願書は毎年、7月初旬から8月初旬まで配布されます。
先ほどの勤め先の証明書と一緒に提出する申請書のフォームを埋め、7月末から8月初旬の願書受付期間に提出します。
もし仮に、願書を提出する時点で全く準備ができていなくとも、恐れることはありません。
「通関業法」「関税法」の2科目なら、市販の参考書を使って、2か月の準備期間でも合格できる可能性があります。
ましてや、科目免除になるあなたは、5年以上、通関業務、通関事務に関わっているわけです。
貿易や通関に関する用語を一から覚える必要もありません。
合格は、すぐそばにあります。
15年勤めれば通関士試験は2科目免除になり、合格率は8割超に
さらに10年勤めあげ、通関業務、官庁における通関事務への従事が通算で15年になると、更に「関税法」まで免除になり、「通関業法」のみの受験で通関士資格を取得できます。
税関の公式サイト内の「第51回通関士試験合格発表」をご覧ください。
これは、2017年の試験結果です。
合格した方々の受験番号が並んでいます。
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官報にも合格者一覧が載りますが、個人名が入っているのでここでは参照しません。
みなさん、4ケタの受験番号になっています。
そして、千の位が1、2、3の3種類あることにお気づきでしょうか?
実は、この千の位は「受験科目数」を表しています。
千の位が「1」の方の並びにご注目してください。
ここでは、「神戸税関(試験地:兵庫県)」で詳しい内訳を見てみましょう。
一科目受験者に注目すると、合格者の最初が「1002」、最後が「1008」。そして、その間の受験番号の方は、3番から7番と全員合格しています。
「1009」以降の方が何人おられるか、わからないものの、「1002」から「1008」の方全員が合格する状態。
その後に不合格の方が5人も10人も続いているとは考えにくいでしょう?
神戸受験の方だけ、何か別の事情があったかも知れないので、念のため、他の地域を確認してみても、やはり同じような状況。
すなわち、1科目受験者は8割から9割、合格するのです。
2018年以降も似たような傾向で、1科目受験者で落ちるのは少数派、あるいは当日、出張などで受験できなかった人かも知れない。それくらい、ほとんどが合格します。
2科目目の関税法が難しくて、2科目受験者の合格率が低い年はありますが、通関業法が難しい年、というのはどうやら無いようなのです。
だから、2科目免除が使えるなら大チャンスです。
勤続15年は長いようにも思えるものの、大学や専門学校を出て通関業務に15年従事すれば37歳前後。そろそろグループ、チームでも中堅とされる時期でもあります。
あなたが該当者なら、ここは一つ、2科目免除でチャレンジして部下に学び続ける姿勢を見せてみてはどうでしょうか。
2科目免除であれば、2か月は十分すぎる準備期間です。
テキストも最新のものは要りません。
ヤフオクなどで安く売られている1、2年落ちの教材で十分です。
3科目受験者の現実 ~ 通関士試験は見かけの合格率と実際が異なる
税関の公式サイトで、通関士試験の結果が発表され、受験者数、合格率などの詳細も公表されます。
そして、2017年の合格率は「 21.3% 」と発表されています。
しかし、この数字の中には先ほどの免除者も分母分子に含まれています。
受験者全員の内訳、あるいは受験番号が発表されていないため、確定はできないものの、各受験地の数字の並びから、
2017年の条件別の受験科目数別の合格率は
- 1科目受験者(2科目免除): 90%前後
- 2科目受験者(1科目免除): 30%前後
- 3科目受験者(免除なし):15%~18%前後
であったと推定されます。
2科目、1科目免除の受験者数がかなり少ないにも関わらず、免除者の合格率が高いので、全体の合格率にも影響を与えるのです。
(少し古い資料になりますが、税関が合格率の推移を一覧表にしてくれています)
2016年の合格率は実に9.8%、その他の年も10%前後の合格率で推移しています。
1科目、2科目受験者の状況が同じであれば、それらの年の3科目受験者の合格率は、5%近くまで落ちていたと推定されます。
メーカーや商社に勤務して貿易実務に明るくなっても、通関実務に従事しているわけではないので、科目免除は使えません。
ぼく自身も、3科目目の「貿易実務」には苦労し、科目免除の使える人をうらやましく思っていました。
通関士試験の難しさは、ほぼほぼ「3科目目の難しさ、時間の足りなさ」に起因します。
他の二科目とは比較になりません。
もし、受験準備をされるのであれば、早めに3科目目、特に「輸入申告」とその周辺の計算問題の対策を始めるようにおすすめします。
ちなみに、2020年(第54回)ごろから、科目免除者の合格者数、合格率も税関が公式サイトで発表してくれるようになりました。
2019年、2020年ともに2科目受験者が苦戦している様子から、関税法(2科目目)の難化傾向が見て取れます。
また、分母は「受験者数」であって「願書提出者数」でないことにも注目ください。
3科目受験者のうち、約25%が試験本番を受けていない、というのは本当にもったいない「不都合な真実」でもあります。
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ちなみに、科目免除者は受験する率も高く、1科目免除ならば85%、さらに2科目免除ならば95%の方が本試験を受けています。
(単位:人、%)
願書提出者数 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
第54回 | 前年比 | 第54回 | 前年比 | 第54回 | 前年比 | 第54回 | 第53回 | ||
全科目受験者 | 7,839 | 100.3% | 5,934 | 104.8% | 857 | 121.0% | 14.4% | 12.5% | |
男性 | 4,280 | 95.5% | 3,204 | 102.2% | 424 | 116.2% | 13.2% | 11.6% | |
女性 | 3,559 | 106.7% | 2,730 | 108.0% | 433 | 126.2% | 15.9% | 13.6% | |
2科目受験者 | 707 | 105.8% | 600 | 105.8% | 124 | 174.6% | 20.7% | 12.5% | |
男性 | 542 | 104.0% | 459 | 106.0% | 86 | 187.0% | 18.7% | 10.6% | |
女性 | 165 | 112.2% | 141 | 105.2% | 38 | 152.0% | 27.0% | 18.7% | |
1科目受験者 | 224 | 126.6% | 211 | 131.9% | 159 | 160.6% | 75.4% | 61.9% | |
男性 | 197 | 125.5% | 184 | 129.6% | 138 | 162.4% | 75.0% | 59.9% | |
女性 | 27 | 135.0% | 27 | 150.0% | 21 | 150.0% | 77.8% | 77.8% | |
合計 | 8,770 | 101.3% | 6,745 | 105.6% | 1,140 | 129.8% | 16.9% | 13.7% | |
男性 | 5,019 | 97.3% | 3,847 | 103.7% | 648 | 130.6% | 16.8% | 13.4% | |
女性 | 3,751 | 107.1% | 2,898 | 108.2% | 492 | 128.8% | 17.0% | 14.3% |
3科目受験者は、夏に申し込みを終えた後、仕事や家庭の都合、あるいは準備不足を理由に受験をせずに終えてしまう人もいる、ということでしょう。
たとえ「絶対に合格しない」という自信(?)があろうとも、一度、受けておくとまったく経験値が違ってくるのですが……。
まとめ:通関士試験の合格率を倍率に換算してみると……
ここまでの内容をまとめておきます。
もし仮に、今から3科目受験で通関士にチャレンジするならどうするか。
ぼくなりの結論は、出ています。
独学で通関士試験の対策をすると途中で挫折しやすいので、コストを抑えつつ戦略的に動きましょう。
いやはや。
それにしても、通関士試験は「マイナー」な資格にしては、ややこしい相手です。
結局、何人受けて何人、合格できるのか。
本試験の時、会場に居る人数を数えながら、その倍率を考えたことがあります。
合格率5%の試験は、倍率にして20倍。
合格率20%でも、倍率は5倍。
つまり、3科目受験の場合、通関士試験は例年、20人に1人が合格、合格率の高い年でも5人に1人が合格する難易度、ということです。
3科目で受けるなら、ランダムに選んだ受験者5名~20名の中で、1番の成績を取る覚悟が必要です。
ですから、1科目でも免除の特典を使える方は逆にチャンスですよ。
市販の書籍による学習でも、合格圏内にたどり着けるかも知れません。
少しでも将来の仕事で役に立つのであれば、是非、通関士資格にチャレンジして欲しいと思います。
逆に、3科目で受験する人は、それなりの覚悟が必要でしょう。
何より本試験(過去問)レベルの問題に、できるだけ早く取り組めるようになることが大切です。
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過去問の研究って、しんどいですけどね。やっぱり、難しいから。
でも、早く慣れていかないと、それだけ成長も遅れます。
効率的で価格も安い「動画で学べる通信講座」についても、別の記事にまとめています。
もしあなたが初めて通関士試験を受けるなら、ある程度のレベルまでは通信講座の活用がおすすめです。
過去問をみて「ああ、これなら自分ひとりでも勉強できそうだわ」と思えるなら別ですけれど、少なくともぼくの1年目はそんな感じじゃなかったな (^^;。