こんにちは。
とあるメーカーで貿易に関わって20年超の神高(かんだか)です。
職場の後輩から「貿易用語 EXW の意味や使い方を教えて欲しい」と頼まれました。
貿易実務の用語・略語に INCOTERMS (インコタームズ)の「 EXW (イーエックスワークス、たまにイーエックスダブリューと読む人もいます)」があります。
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今回の記事では、EXW について、一緒にみていきましょう。
なお、INCOTERMS 2020(インコタームズ 2020)の書籍をベースにプレゼン資料(パワーポイント)を作っているので、必要に応じてダウンロードしてご利用ください。(パスワードは”busitable”です)
EXW (イーエックスワークス、と読みます)の意味
定義: EXW は「 Ex-Works 」を略した INCOTERMS(インコタームズ) です。
ここで、おのおのの言葉は、このように理解しておいてください。
- Ex = from、out of を表すラテン語 = ~から。「工場、作業場から」のイメージ
- Works = 工場、作業場 = 輸出者の工場、作業場、倉庫などのイメージ。
- INCOTERMS = インコタームズ = 国際商業会議所の定めた貿易ルール
つまり、日本から貨物を輸出するのであれば、「日本国内の工場で貨物を買主(かいぬし)に引き渡したら、責任は終わり」という条件です。
ちなみに、引き取りに現れた車両(トレーラーやトラック)に積み込む必要もない、というのが原則(インコタームズのルール)です。
ただ、それほど大きくない木箱など、工場に常設された「リフト」や「クレーン」を使って積み込む程度の貨物ならば、「取引金額(売買のときに契約した金額)」に含めるのが無難(一般的)でしょう。
通常、相手は「お客様」です。
「積み込みは別料金になります」
「クレーンは自分で呼んでください」
というわけには、おそらくいきませんからね。
それから、保険は「売主(うりぬし、売る側)」ではなく、「買主(かいぬし、買う側)」が用意します。
では次に、具体的な使い方をみていきましょう。
EXW (イーエックスワークス)の使い方

契約書や船積書類(インボイスなど)に書く時は、EXW の後に「貨物を受け渡す場所」を続けます。
例えば、神戸から上海まで貨物を運ぶ(神戸側からみれば「輸出する」)としても、明石(あかし、神戸の近隣の都市)の工場で貨物を引き渡すのであれば、以下のように書きます。
港の情報、ここでいう「神戸」「上海」は書きません。
このとき、Akashi Factory は Shipper = 輸出する者の「明石工場」を指す、と考えるのが自然です。
もし、ABC MFG 社の明石工場なら、「 EXW ABC MFG Akashi Factory, Japan: USD 50,000.- 」とします。
明石工場で貨物を渡し、その時の販売金額が USD 50,000.- 。
こういった情報が、この一行=ほんの数文字で表されています。
数億円単位の取引であっても、この表記は同じです。
さて、それでは、 EXW の輸出通関は「誰」が行うのでしょうか?
EXW (イーエックスワークス)と輸出通関
EXW は輸出の手続きに関する費用を輸出者側(=売主(うりぬし)、あるいは輸出を行う関連会社、商社など)は負担しない、という条件です。
ですから、輸出通関(ゆしゅつつうかん=輸出の申請を税関に行う手続き)には、基本的に関知しません。
しかし、神戸港から上海港まで輸出しようと思えば、インボイス(仕入書)やパッキングリスト(梱包明細)、原産地証明、非該当証明など、いろいろと「貨物の中身を説明するための船積に関する書類」が必要になりますから、それらのもとになる情報は、「売主」側が用意するべきでしょう。
そのあたりは「 EXWでの売主の義務」の項に、「買主の依頼、危険および費用により、適用できる場合には、物品の輸出に必要な輸出許可その他の公式の許可を取得するにあたり、売主はあらゆる助力を与えなければならない」との注意書きでも考慮されています。
安全保障上のホワイト国云々の議論を持ち出すまでもなく、「インボイスを書けないほどに、中身がよくわからない」貨物は、輸出が許可されませんからね。
2019年8月2日追記:「非ホワイト国」は「グループB~D」へ
日本経済新聞で、以下の内容が報道されました。
「これまでは輸出管理制度において優遇措置が得られる「ホワイト国」と、その他の「非ホワイト国」の2つの名称を用いてきたが、今回「ホワイト国」を「グループA」に名称変更し、「非ホワイト国」は「グループB~D」の3つのカテゴリーに分ける。韓国は今回の政令改正で、グループAからグループBに変更となる。」
ということは、韓国を含むほとんどの国は「グループB」で運用される、ということになりそうです。
「グループC」の国のイメージがつかみにくいですけど、Cの国はCとDと行ったり来たりすることになるでしょう。
今日の今日なので、経済産業省のページも、当然 CISTEC も間に合ってないので、情報が整理されたらご紹介します。
EXW(イーエックスワークス)が FOB や CIF よりも使われにくいわけ
ここまでの説明でもおわかりいただける通り、EXW はかなり「売主(売る側)」にかなり有利な条件です。
これを実現できるとすれば、「日本国内に法人を持っている」あるいは「非常に事情をよくわかっている代理店がある」のいずれかでしょう。
そうでなければ、「買う側がかわいそう」です。
海外から日本の「初めて取引する会社」に問い合わせし、見積(みつもり、コストの問い合わせ)を取り寄せて輸出まで対応してもらう、というのは、非現実的だからです。

まず間違いなく、日本国内の取引先よりも「高いコスト」が提示されます。不確定な要素があるのですから、当然と言えば当然です。
これが、FOB や CIF よりも EXW が「使われにくい」理由です。
EXW と「税関事務管理人」制度
EXW と密接な関係がありつつも、業界によっては、ほぼ知られていないのが「税関事務管理人(ぜいかんじむかんりにん)」制度です。
これは、買主(外国に住む買う側の企業や人)が、日本に住む「税関事務管理人」を任命する仕組みです。
「税関事務管理人」は、人または法人で、事前に税関長の許可を受けておく必要があります。
これを行っておけば、税関への輸出申告手続きを買主の名義で行えます。(関税法第95条に規定があります)
たとえば、日本法人がある外国企業で、日本国内の物流に大きな強み(コスト競争力)を持っているのであれば、こういった方法も使えるでしょう。
あるいは、相当な事務手続き能力と物流網を持つ「通関業者」が輸出入を一手に引き受けて、顧客には「内国貨物」のように扱ってもらうサービスなども、今後は出てくるかも知れません。
ただ、相当な物量(ぶつりょう、貨物の量)がないと意味がありませんし、2社、3社と相見積(あいみつもり、コストを比べること)をすれば、自社で輸送するより安いケースもあるでしょうから、一定規模以上の扱い量がなければ、貿易実務、貿易事務の中で触れる機会は少ないと想像します。
なお、「税関事務管理人」を使えば、売主(うりぬし)は直接の輸出者ではないものの、一連の手続きとして輸出免税(輸出することで消費税が還付される制度)の適用を受けられる可能性があります。
しかし、そこまでくるとかなり特殊ですし、貨物の種類、その他の法制度によっても変わってきますから、ぼくのブログに答えを求めるよりも、実際に乙仲(通関業者)を通じて税関と協議をするべきです。
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輸出許可通知書を偽造して消費税の還付を受けた宝石業者もいました。3者で運用するなら、厳格かつ分かりやすい「しくみ」が必要でしょうね。
まとめ: EXW は「売主」に大変有利な条件だけど、使い方が難しい
FOB (エフオービー)でも売主側が有利なのに、それよりもさらに「売主に都合のよい」条件が EXW です。
ただ、途中でも触れましたが、「売主のコスト(費用)」+「買主のコスト(費用)」を最小にする、という観点からすると、「どうかな?」と思わざるをえません。
というのも、海外の企業が「日本国内の物流費やルール」を熟知して、日本の企業以上にコストを下げることができるとは思えないからです。
これは、逆も同様で、書類や小さい部品など、よほど運びやすい貨物でない限り、「 DAP 」や「 DDP 」を使えば、たいてい割高になります。
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逆に、書類ひとつを運ぶのに FOBだ、いや CIF だ、と議論するのも、ばかげていますけど……
そういう意味では、もし、「海外から何かを買う」のであれば、「 CIF 」がお互いに最もコストミニマム(費用がトータルで最小)になる、と仮定して、複数の見積を比較すると良いでしょう。
買う側に船を手配するよほどの理由(コスト競争力や重量物で荷受けが特殊、など)があれば、「 FOB 」もアリですけどね。
お互いがコントロールしやすいところで責任を持つ、というのが、結局はコストを下げると想像されるからです。
お別れの前に。
その他のインコタームズについては、こちらをどうぞ。






