こんにちは。
とあるメーカーで貿易実務に20年以上関わっている神高(かんだか)です。
先日、メールで「貿易取引において、どのようなリスクが考えられますか?」との質問をいただきました。
ぼくは学者ではないですから、法律や国際法の観点から述べることはできません。
また、日々、仕事で接しているのに、そのような「杓子定規」なことを解説しても、お役に立てないでしょう。
「第一に、カントリーリスクが……」、なんて言われても、漠然としていて困りますよね。
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今回は、「貿易実務の視点から、リスク管理をどうするか」について、お話しましょう。
【貿易】リスク管理と実務|NEXIの貿易保険を知ってますか?
多種多様な将来への不安、最悪の事態への備えはできているかどうか、がポイントです。
- 新しく海外との取引を始めたけれど、何に備えたらよいかわからない
- 長年、取引をしてきた海外の顧客(あるいは協力会社)の様子がおかしい
とはいえ、どんなリスクがあるのかがわからない。
そんな大企業、中小企業向けに「日本国」が出資している「NEXI(ネクシィ) の貿易保険」という仕組みがあります。
もともと独立行政法人でしたけれど、2017年に株式会社化された組織です。
保険ですから、多少の費用はかかります。
かかりますが、「貿易における(ほぼ)最悪の事態」に備える保証が用意されています。
たとえば、輸出の保険ならば、カバーされるのは以下の「非常危険」と「信用危険」です。
非常危険【国や地域の問題、紛争などによるもの】
- 為替取引制限・禁止、輸入制限・禁止
- 戦争、内乱、革命
- 支払国に起因する外貨送金遅延
- 制裁的な高関税、テロ行為
- 国連または仕向国以外の国の経済制裁
- 収用
- 自然災害、その他、契約当事者の責によらない事態
信用危険【個別の契約相手によるもの】
- 契約相手方の3カ月以上の不払い(商品クレーム等、輸出者に責のある場合を除く)
- 契約相手方の破産
- 破産に準ずる事由
- 外国政府等を相手方とする輸出契約等の船積前の一方的キャンセル(民間バイヤーの船積前の一方的キャンセルは一部特約を付帯した場合を除き対象外)
保険は「リスクの発生頻度は低いが、発生すると損失が大きい場合に有効」
個人の生命保険、損害保険と同様、「リスクの発生頻度は低いが、発生すると損失が大きい場合に有効である」という原則は同じです。
ですから、「何となく不安」「取引先の支払いが遅れるケースが出てきた」という場合には、検討する価値があります。
ただ、「経営状態が悪い」「支払いが遅れている」くらいでは保険は出ませんけどね。
保険商品の詳細は、公式ウェブサイトを参照ください。
貿易と国内取引、リスク管理の違いをどう考えるか?
メーカーや商社の立場で、日々、商品を販売しているとき、海外との取引を特別視する必要はありません。
なぜなら、「信用危険」の部分はまったく国内の取引と同じだからです。
もう一度、NEXI (貿易保険)でカバーされる項目を確認してみましょう。
- 契約相手方の3カ月以上の不払い(商品クレーム等、輸出者に責のある場合を除く)
- 契約相手方の破産
- 破産に準ずる事由
- 外国政府等を相手方とする輸出契約等の船積前の一方的キャンセル(民間バイヤーの船積前の一方的キャンセルは一部特約を付帯した場合を除き対象外)
つまり、「取引先の経営状態」を常に注視することでしか、リスクは回避できないのです。
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商品クレームが起きたら補填してくれる、という保険があったら、逆にすぐに保険会社側が破たんしそうでしょう?
これは、日本国内で商品を販売する、部品や原料を調達するケースと全く同じですよね。
貿易事務でもできることがあるのか?|相手の立場になって考えてみる
「船積書類を作成して海外に送る」「L/C(信用状)を海外の取引先向けに開設する」といった仕事をしている人でも、「貿易上のリスク管理」に貢献できます。
というか、むしろ、早く前触れに気づけるかも知れません。
- 従来、3か月前に開設していた L/C (信用状)が急に船積直前にしか開かなくなった
- 貿易実務の窓口をしてくれていた取引先の担当者(外国人)がやたら頻繁に入れ替わる
などといった変化が取引先にみられるようであれば、すぐに「契約の不履行」など深刻な事態にはつながらないにしても、相手側の事情が変わっている可能性があります。
そんな時は、社内の上司、あるいは海外営業の部門などと情報共有しておけば、先々、役に立つかも知れません。
【貿易】リスク管理と貿易実務|まとめ
ここまでの内容をまとめておきます。
貿易上のリスク管理、といっても、結局は国内の取引(そして、結局は個人の関係、人と人)と同じです。
もし、相手が「関係を終わらせても構わない」と心を決めてしまえば、何をやっても無駄、手遅れだからです。
- 「二度と買ってもらわなくていい」
- 「取引停止になってもいい、二度と買わない」
- 「最悪、会社を倒産させてもいい」
- 「離婚しても構わない」(これは、個人のケースですけど……)
そうなってからでは、なかなか効果的な手の打ちようがありません。
関係の解消を恐れていない相手との関係改善は、通常はとても難しいもの。
ですから、そうならないようにコミュニケーションを継続することが、結局は「最大のリスク管理」となります。
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貿易事務が中心の人でも、担当者への電話一本、メール一通がリスク回避につながっているんですよ。
そう思えば、多少の苦手意識があるにしても、取引先とのメール、電話に、大きな意味があると思えますよね?
日々の貿易実務、貿易実務だって、あるいは客先とのランチにしても、「リスク管理」に貢献しているんですよ。