こんにちは。
とあるメーカーで20年以上、貿易実務を担当している神高(かんだか)です。
ある若い同僚から、「神高さん、ケースマークには何を書けば良いのですか ?」との質問を受けました。
ケースマークとは、荷印、シッピングマーク( case mark、shipping mark )とも呼ばれる、貨物に貼り付ける「看板」「表示」のことです。
木箱(crate、case)や段ボール箱(carton)の側面、横から見てわかりやすい場所に貼る、あるいはペイントするのが一般的でしょう。
基本、「輸入者から理解が得られるなら、輸出者が好きに選んで良い」ものの、常識的なこと、お決まりの作法はいくつかあるので、この機会に整理しておきましょう。
ケースマークのサンプルも用意しています。自由に持って帰ってください。
港や船内で荷役作業する人の立場を考えた「見やすい」表示をする
輸出する貨物の梱包のおもて(ラップやビニールでくるんでおれば、その外側)に表示する記号や番号をケースマーク(case mark)、シッピングマーク(shipping mark)、日本語では荷印(にじるし)と呼びます。
これは、輸出入が行われる港や船内で荷役(にやく)をする作業者や税関関係者のため、と理解しておくと、いろいろな判断を適切に行えるでしょう。
たとえば、コンテナを使って貿易をするにしても、ケースマークやシッピングマークがなければ、箱の中の貨物同士が区別できなくなりますからね。
もちろん、INVOICE(インボイス) などの船積書類と現物が一致しているかどうか、確認する目的もあります。
しかし、当たり前すぎて誰も言いませんが、輸出者の最大の目的は「荷物を輸入者に確実に届ける」ことです。
ですから、誤配や荷物の取り違えは絶対に避けたい。
そう考えれば、箱状の貨物であれば「側面から見やすい場所に掲示するべき」ですし、「最低でも二面、可能ならすべての側面に同じ表示」をしたいところです。
高さや文字のサイズ、フォントなども、「デザイン」より見やすさを基準に選定しましょう。
また、記載する内容、項目も、そのような視点で選ぶと迷うことは少ないです。
たとえば、以下のような工夫が考えられます。
- 梱包の中身を外から確認できない段ボールやトライオール(段ボール梱包の高級版)などなら、物品名や製品名、商品名を入れる。
- 貨物が5箱口であれば、通し番号 1/5 から 5/5 を入れる。
- 段積みが厳禁であれば、その旨を表示する。
- 重量貨物でリフトやクレーンで荷役するなら、梱包込みの重量(グロス重量)を明記する。
- LCL(コンテナによる混載便)では、取り違え防止のため、表示を大きくする。
基本的に、ケースマークには何を書いても構いません。
必要な工夫は、どんどん取り入れましょう。
ここからは、ケースマークの作り方を説明します。
シッピングマークのサンプル|無料テンプレート【ワード版】【エクセル版】
シッピングマークのサンプルを、マイクロソフトのワード版、エクセル版で用意しておきます。
- CASE_MARK_SAMPLE_BUSITABLE(ワード版:拡張子 docs)
- CASE_MARK_SAMPLE_BUSITABLE(エクセル版:拡張子 xlsx)
どうぞ、ダウンロードしてご自由にお使いください。
最大限に詳しい(多くの情報を含む)パターンにしていますので、使う時は適当に省略してください。
実際のケースマークの貼り方ですけれど、Amazon 等で売っている「納品書在中」などと書かれていない無地の透明なビニール袋を使うのが便利ですね。
A5 の紙にプリンターで印刷してスプレー糊で貼り付ける、なんてのも十分に実用的ですが、輸送中に水で濡れるとちょっと心配。
裏面が粘着テープになっている透明な袋ならば、A5 サイズに印刷したケースマークを封入するだけですから、楽に取り付けることができます。
≫デリバリーパック A5サイズ用 175x250mm 1000枚入 PA-005T(Amazon)
これは1000枚単位ですが、さらに数量がまとまるようなら、法人、会社向けの「アマゾンビジネス」のアカウントを使ってボリュームディスカウント(数量値引き)を申し入れても良いでしょう。
原産地の情報を軽く扱ってはいけません【輸入を止められます】
何を書いてもかまわない、と説明したものの、原産地の表示については、よくわからないから、と適当な情報(たとえば、「日本から出荷するから MADE IN JAPAN だろう」程度の判断)をケースマークに書いてはいけません。
原産地の情報は各国、大切に扱っているので、誤った表記をすると、輸入許可が下りないリスクがあります。
よくわからないのであれば、むしろ初めから書かないほうが無難です。
これは、日本も同様で、たとえばケースマーク、あるいは箱の中の衣類の小さなタグであっても、誤った「 Made in ドコソコ 」が書かれているだけで、全数、輸入は許可されません。
それを誤認させるような、紛らわしい表示もダメです。
その時は、表示を全部消すか訂正しないと、貨物を送り返すことになってしまいます。
原産地の表示は消費者の直接の利害(買うかどうかの判断など)に関わるので、厳しいルールが適応されるのです。
この内容はとても大切なので、タックスくん【税関の公式マスコット】が判りやすく答えてくれています。
一度、読んでおいてください。
L/C (信用状)の指示があれば、一字一句その通りにする
L/C (信用状、Letter of Credit) を用いた取引の場合、その条件(満たすべき約束事)の中でケースマークを指定されることがあります。
一般的に多いのは、マーク(メインのひし形や長方形に囲まれたマーク)、仕向地 (DESTINATION)、原産地(COUNTRY OF ORIGIN)、重量(NET WEIGHT, GROSS WEIGHT)、容積(MEASUREMENT)などでしょう。
ただ、これらも輸入者(厳密には、貿易実務の担当者と財務の担当者)が L/C を開設する時に銀行に指示しているだけですから、特に決まったルールはありません。
おそらく、輸入者側の実務者も、過去に開いた L/C をベースに検討、記入しているだけです。
もちろん、ほかの法律や条例などで表示を義務化されている場合もありますよ。
あまりに複雑で、「ここまでは必要ないのでは?」というレベルであれば、L/C を開設している輸出者(実務者)と相談のうえで簡略にすれば業務改善につながります。
まとめ:ノーマーク( No Mark )で問題にならない時もある
今回のおさらいをしておきます。
インボイス(INVOICE)の無料サンプルも作っているので、必要な方はこちらからどうぞ。
【貿易】船積用 INVOICE の SAMPLE を作ってみた
ケースマークについてたずねてきた若い同僚の話に戻りましょう。
詳しく聞くと、ケースマークについて質問してきた彼女は、300 g 程度の電子部品を航空便で送ろうと考えていました。
どうやら、貿易実務講座で「ノーマークは避けましょう」と教わったから、とのこと。
たしかに、原則はそうだね。でも、DHL や FEDEX の宛先を書く前の送り状にある Tracking No. をうまく使えばケースマークなしで構わない。送る相手にきちんと Tracking No. を伝える方が大事だよ。
といった話をした。
ケースマークにルールはないものの、「たいてい、そうなっている」という様式はあります。
たとえば、ジェトロのサイトでは、以下のような記載の事例が紹介されています。
- 主マークである記標と買手の頭文字を組み合わせたマーク(Main Mark) (余談)
- 仕向港(Port Mark)
- ケースナンバー(Case No.)
- 貨物の原産地表示(Country of Origin; 例、Made in Japan)
- 取扱上の注意(Care Mark)
- 総重量(Gross Weight)
- 純重量(Net Weight)
- 容積(Measurement)
余談): ♢(ダイヤ、in dia )のマークは、心理学的な効果を狙っています。
交通標識も、注意を促すもの(警戒標識と呼ばれます)は黄色いひし形ですよね?
人間は「縦横の方向に頂点がくる形状」に「不安を感じる」ようにできているので、注意が向くのです。
海上輸送の貨物でここまで詳しく書かれているなら、実に素晴らしいと思います。
さらに「寸法」を表す DIMENSIONS があると、なお良いでしょう。
クレーンでの荷役なのか、リフトでも運べるのか、といったことも明確になります。
ただ、L/C 決済ではない手の平サイズの小さな航空貨物に、ここまで詳細なケースマークを付けたら逆に滑稽です。
各種の船積書類、たとえば B/L (Bill of Lading, 船荷証券), I/V (Invoice, 送り状), P/L (Packing List, 梱包明細)、その他、原産地証明など、すべて同じ内容が記載されますから、必要以上に詳しく書くと間違いや誤記の原因にもなります。
ですから、企業で継続的に行う輸出入に使うケースマークであれば、従来のスタイルを守りつつ、改善(簡略化)を検討してみましょう。
たとえば、誤配や紛失が一定の頻度で起きるなら、ケースマークの工夫や見直しだけで予防できる可能性もあります。
ケースマーク一つで、社内の「改善提案」につながる、かも知れません。
最後に。
もし、あなたが貿易実務に関わって日が浅いなら、この記事だけは読んで帰ってください。
「ちょっとの工夫で避けられたはずのデマレージ」で悩む人を一人でも減らしたいんです、本当に。