こんにちは。
とあるメーカーで貿易実務に20年超たずさわっている神高(かんだか)です。
今回の新型コロナウイルス( Novel Coronavirus、ノベルコロナヴィールス )のせいで、「これは Force Majeure に該当するのではないか?」との議論や報道が出るようになってきました。
「 Force Majeure(フォースマジュール)」とは「不可抗力(ふかこうりょく)」や「天変地異( act of God )」を意味するフランス語で、各種メーカーの売買契約にもたいてい入っている条項です。
天変地異(地震や洪水、台風、戦争、暴動、ストライキ等々)、つまり予測や制御のできないことが起きた時に、どのような処置をするのか、売主、買主で決めておく契約項目のことです。
とりあえずは、一般条項、一般契約条項などと呼ばれる一連の取り決めの一つ、と認識しておればよいでしょう。
一般条項の例としては、たとえば以下のような項( clause、見出し )です。
- 契約不履行 ( Default ):約束を果たせない時の取り決めなど
- 契約解除 ( Termination ):契約を止めたい時の手順など
- 準拠法 ( Governing Law ):裁判をするときに適用する法律
- 不可抗力 ( Force Majeure ):不可抗力
- ……… などなど(多数)
これらの中で、今回は「フォースマジュール」がどのようなものか、コロナウイルスの事例を交えて、実務者の立場から解説します。
法律的な観点からの説明はできませんし、たくさん専門家がおられるので、ぼくがわざわざ書く理由もないですからね。実務者の目線です。
【貿易】Force Majeure(フォースマジュール)とは何か?|新型コロナウイルスの事例
2020年に入って流行している新型コロナウイルス( Novel Coronavirus, 2019-nCoV )について、中国政府の一部はすでに「Force Majeure(フォースマジュール)」の認定手続きを始めています。
その具体例(広州市政府の動き)がこちら(ジェトロの公式サイト)。
広州市政府の発表した方針の第14項に「感染拡大の影響を受け、期日どおりに貿易契約を履行できない企業に対し、無償で不可抗力事実証明を発行。契約履行、労使紛争などに影響が及んだ場合の法律専門サービスの提供など企業の課題に合わせた援助を行う」との記載があります。
ここでは「 Force Majeure 」という単語は使っていませんが、「不可抗力事実証明」は間違いなく「コロナウイルスをフォースマジュールと中国政府が認める書類」を指しています。
つまり、実際に仲裁(ちゅうさい、arbitration )や裁判となった時に中国政府は自国の中小企業をサポートしますよ、という姿勢をも明確にしています。
もちろん、フォースマジュールも何にでも使える免罪符ではなく、直接の因果関係を取引先に説明するなどの事後処理が必要になるわけですが、中国企業と取引をしているのであれば、中国側は政府が支援を表明していることは十分に理解しておいた方が良いでしょう。
すでに、コロナウイルスは「 Force Majeure 」と取引先が申し入れしてくる可能性が十分にあるのです。
中国に現地法人をお持ちの企業であれば、こちらの「唐紅海」弁護士の解説も参考になるでしょう。
Force Majeure(フォースマジュール)で部品が入ってこない!
不幸中の幸いと申しますか、ぼく自身は経験していないものの、自動車産業など業種によっては今回の新型コロナウイルスで部品が入ってこない、という経験をされているとのこと。
自動車や航空機、あるいはインフラを支えるプラントなどの場合、ボルト一本でも本来の仕様と違うなら、その妥当性を検証しなければ完成品になりません。
欠品だからといって、自動車工場で本来のスペックと違うボルトで組み上げる、なんてことは考えにくいでしょう?
だから、日本にとって、パンデミック(病気の蔓延)によって完成品を輸出できない、というのも問題ですが、組み立て(アセンブリ)を止めなければならない、というのも深刻な問題です。
輸入品しか使えない、という状況は、こういう時に辛いですよね。
円高の時に「海外調達」が流行りましたから、今も部品のサプライヤー(供給者)は世界中に散らばっている、かも知れません。
貿易のリスク管理、といっても、最後は人と人じゃないかな……
フォースマジュールを「宣言する側」も大損害を受けているので大変ですが、「宣言される側」も当然、ダメージは大きい。
たとえば、アセンブリ(組み立て品)を完成させる上で、部品や仕掛品は非常に大切です。
でも、それが中国その他の地域から入ってこない。
となると、完成品(製品、商品)を流通させることはできません。
そんなとき、Force Majeure(フォースマジュール) が適当されるかどうか、なんて実は大した問題じゃありません。
なぜなら、部品代+αをサプライヤー(供給者、部品を売ってくれる人)に補償してもらっても、商品を作れない機会損失( opportunity loss )はその何倍、何十倍にもなるからです。
ですから、NEXI の貿易保険に関する記事でも述べたとおり、「貿易のリスク管理、最後は人と人」なんじゃないか、と今回の問題を見ていても思います。
たとえば、倉庫に保管している部品を中国から日本に向けて出荷してくれるかどうかは、最後の最後は「人と人との関係」に委ねられるのではないでしょうか。
日本側が必要とする部品を誰も出勤していない倉庫から引っ張り出し、たとえパレットにも満たないわずかな量でも日本に送ってくれる。
セカンドベンダー(部品の供給業者の2番手)の体制が整うまでファーストベンダー(主要な部品供給者)が頑張ってくれないと、簡単に生産ラインは止まってしまいます。
そんな人が現地にいてくれるかどうかは、普段の人と人との関係性によるだろう、と思います。
今回のコロナウイルスとは関係ありませんが、ぼく自身も過去に似たような経験をしたことがあります。
その時は「手持ちのパーツ(部品)に大量の不良品が混入していたので、在庫をあるだけ送ってください」って別のサプライヤー(部品やさん)に依頼したケースでしたけどね。
若いころ、生産ラインに近い部門で働いていたときの思い出です。
【貿易】Force Majeure(フォースマジュール)とは何か?|まとめ
今回の内容をまとめておきます。
日々の生活、あるいは製造業の世界であっても、とにかく安いものが選ばれる状況です。
まるでデフレの二階建て、三階建て、そしてスパイラルへ……。
しかし、新型コロナウイルスのようなことが起きると「ああ、日々の生活、企業活動は絶妙なバランスの上に成り立っているんだな」と思い知らされます。
皮肉なことに新型コロナウイルスで「在宅勤務」「リモートワーク」などの「働き方改革」が進むかも知れない、なんてことを言う人もいます。
同じく「一つのサプライヤー、一つの地域に肩入れしすぎるリスク」も今回の騒動で再認識さえるんじゃないかな、とぼくは考えています。
貿易におけるリスク管理って、究極は「人と人の関係」に行き着くのですから。
本日は最後までお読みくださり、ありがとうございました。
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