メーカーや商社で輸出の仕事だけに従事していると、日本に輸入するコンテナにも24時間ルールがあることを知らない人がいる。
と言いつつ、実はぼくも詳しく知らなかった。
ちょうど関係する案件があり、情報をまとめたところだ。
輸出と輸入はちょうど逆の立場になるので、利害も逆になる。
輸入する側(購入者、お客)だからといって、輸出者より偉いわけではない。
相手への理解と思いやりのためにも、一緒に整理しておこう。
日本にもある24時間ルール 米国、中国だけではない
米国、EU、中国が導入している通称「24時間ルール」。これはテロ対策の一種で、船荷目録(マニフェスト)を貨物を船に積み込む24時間前までに提出しなければならない、という決まりだ。米国が2002年12月に導入し、世界各国、徐々に広まってきた。
輸出の仕事だけに従事していると気づかないが、実は日本にも24時間ルールが存在する。
米国他と同様、貨物を本船に積む24時間前までに船荷目録(マニフェスト)の提出が必要となる。
ただし、たとえば関西、中四国地区の港で考えると、釜山なら約2日、上海でも1週間程度で到着する距離なので、例外措置が認められる。
具体的には、韓国、中国などの近隣国は「本船に積む」ではなく、「本船出港」24時間前、と条件が少し緩和されている。
輸出の仕事をメインに従事していると、どうしても輸入の仕事の感覚がつかみにくい。
かくいうぼくも、同じく輸出がメインなので、輸入に関してはどうしても手が遅くなる。
そして、たまに処理する輸入の仕事で、輸出者(海外の仕入れ先や関連会社など)の作成する書類の体裁や本船情報連絡のタイミングなどに、いろいろとストレスを抱えることになる。
「船便が変わるなら早めに言ってほしかったな」「船積み書類は本社の代表に発送せずに工場に直接送って欲しかったな」「もっと詳しい P/L にして欲しかったな」などなど。
しかし、それはまた、自分も輸出の仕事で意図せず、しでかしているかも知れない。
輸出入はお互いさまなので、電子メール、電話など、日常的なコミュニケーションは必須だ。
売主、買主の立場を超えて協力できる関係を築きたいものだ。
抜港その他、船会社からの情報発信によるリスク管理
個別の地域の特殊なルールは、他にもある。また、テロ対策などで一定期間だけ特別対応をすることもある。
乙仲業者はそういった情報に詳しいので、つい頼りがちになる。
しかし、現在はインターネットで各船会社もスケジュールの変更や注意してほしいことを個別に発信している。
例えば、アジア地区に多数、配船しているこちらのコンテナ会社は港ごとのカット日やCYオープン(CYにコンテナを置ける初日、1週間から10日程度が一般的)を開示してくれている。
こういった情報をうまく使い、乙仲業者と協力していけば、保管費用や輸送費用を削減できる可能性もある。
さて、24時間ルールの前提となるのは「カット」に関する知識だ。この記事を読んでいただいているような方には釈迦に説法かも知れないが、今一度、整理しておこう。
CY ( FCL )、CFS ( LCL )の「締め切り」=「カット日」
輸出の仕事をしていれば、当然、知っている情報だろうが、今一度、認識しておきたい。
コンテナ船は定時運行(計画通りに入港、出港すること)を非常に重視している。
旅客飛行機の定時運行同様、顧客(荷主)獲得には運航スケジュールの安定が欠かせないからだ。
その目的を達成するため、コンテナ船を運航する船会社は、Berth Term で貨物のスケジュールを船側からコントロールする。
そして、CY へのコンテナ搬入、CFS (混載)への混載貨物の搬入に締め切りを設定している。
この締め切りを、海外ではCut-Off、日本ではカット日(CY カット、CFS カットとも)と呼ぶ。
Cut-Offの運用は厳格だ。1日でも過ぎれば、予定とは別の便に積まざるを得ない。
日本では、「原則として」CYカットは営業日基準(土日その他の休みを除く)で「本船入港日の前日」、CFSカットは「本船入港日の前々日」に設定されている。
1日の違いはCFSで貨物を混載する作業時間から生じる。
ちなみに、CFS で混載されたコンテナは CY に一旦搬入されるため、CFS で混載が終わった後、何らかの事故や不具合で CY カットに間に合わなければ結局、予定の本船に積むことはできない。
早めに乙仲業者の倉庫に貨物を搬入できる場合は心配無用だ。
乙仲業者は、うっかりカット日を見落としたりしない。
しかし、積みたい船の出航日と貨物の準備完了(Cargo Ready、カーゴレディとも呼ばれる)のタイミングがきわどい時は、貿易実務の担当者は荷主の立場として、時々刻々の管理が必要だ。
貨物(メーカーなら製品、商品など)の準備が間に合うかどうかは、荷主が一番わかっているのだから。
メーカーで貿易実務に従事することになれば、製造部門や物流部門とカット日を意識して日々の仕事に取り組むことになる。
ちなみに、航空貨物は「カット日」ではなく「カット時間」が設定される。飛行機が出発する2時間前、あるいは3時間前と考えてください、とフォワーダーさんから聞いている。コストがかかる分、海上輸送とは別次元だ。
まとめ:前日、前々日が「原則」、北米、欧州、中国は例外
いかがだろうか。
先ほど、「原則として」CYカットは本船入港日の前日、とご説明した。
原則があるということは、例外もある。
北米、欧州、中国向けの輸出貨物を扱うのであれば、注意が必要だ。2日間繰り上がって、本船入港日の3日前がCYカットとなるからである。CFSカットはさらにその+1日となる。
その理由が、先ほどの24時間ルール(米国、EU、中国が導入している通称「24時間ルール」。これはテロ対策の一種で、船荷目録(マニフェスト)を貨物を船に積み込む24時間前までに提出しなければならない、という決まり)だ。米国が2002年12月に導入し、徐々に広まってきた。
そして、今は日本も導入している、というわけだ。
この船荷目録(マニフェスト)の提出義務は、我々荷主ではなく、船会社にある。罰金その他の規定まであるため、船会社はペナルティを課されないよう、リストを時間内に作成、提出する。
その作業に一定の時間が必要なので、3日前にCY搬入を、と全ての顧客に求めているわけだ。
現在、船積み書類を先に提出するなどの工夫で、コンテナのCYカットを2日前、あるいは他の向け先同様に前日に変えられないか、政府で議論されている、との報道がある。
IoT を活用していけば、改善の方向に向かうだろうと、ぼくは思う。荷主に提出を求められるデータの内容も、今後は変わってくるかも知れない。
ユーザー(輸出者、輸入者)と海運会社、税関などの関係官庁、いずれも無理なく対応できる仕組みができ、ひいては日本の競争力強化につながることを願っている。
また、ユーザーの立場で何かできることがあれば、取り組んでいきたい。
貿易実務に携わるからには、そのような将来的なルール変更にも気を付けねばならない。