こんにちは。神高(かんだか)です。
職場の若い人から「 DDP の意味や使い方を教えて欲しい」と頼まれました。
貿易実務で用いられる用語・略語に INCOTERMS (インコタームズ)の「 DDP = Delivered Duty Paid(デリバード デューティー ペイド))」があります。
INCOTERMS(R) 2020 (10年ぶりの改訂版、2020年1月発効)でも残った、「 D で始まる3文字」グループでは最古参の部類です。
7つある主要な条件にも選ばれています。(残りの4つは伝統的な FOB、CIF など)
今回は、DDP について、一緒にみていきましょう。
なお、INCOTERMS 2020(インコタームズ 2020)の書籍をベースにプレゼン資料(パワーポイント)を作っているので、必要に応じてダウンロードしてご利用ください。(パスワードは”busitable”です)
DDP (ディーディーピー)の意味|インコタームズ2020
定義: DDP は「 Delivered Duty Paid 」を略した INCOTERMS(インコタームズ)です。
ここで、おのおのの言葉は、このようなイメージで理解しておいてください。
- Delivered = 輸入地の「ある場所」まで「輸出者の費用で運ぶ」
- Duty Paid = 「関税込持込渡し」、関税、消費税( VAT )を売主が払う
日本から貨物を輸出するのであれば、「輸入国(アメリカや中国など)の工場や倉庫で貨物を買主(かいぬし)に引き渡すだけでなく、売主は関税、消費税などの一切を売主が負担する、という条件です。
また、この条件が特別なのは「輸入通関も売主(うりぬし、輸出者)」が行う、という点です。
DAP、DPU は「輸入通関は買主(かいぬし)」ですから、この違いは絶大です。
ICC が発行した英語版の INCOTERMS 2020 の解説書にはこう書かれています。
この記載のあと、「DDP は輸入通関までも売主が手配する条件なので、何らかの理由で輸入通関ができないのであれば DAP、DPU で買主と契約しましょう」と解説されています。
「買う側から見たら、まるで国内取引」のような条件を売主に課している、と理解すればより理解しやすいでしょう。
インコタームズ2000/2010/2020 比較表
せっかくなので、前後のインコタームズをまとめた一覧もご紹介しておきます。
エクセル版なので、適当にダウンロードして使ってください。
クラウド版の Office 365 を使っているので長いアドレスになっていますけれど、怪しいリンクではありません。
では次に、具体的な使い方をみていきましょう。
DDP (ディーディーピー)の使い方|インコタームズ2020
他の D で始まる条件同様に、契約書や船積書類(インボイスなど)に書く時は、DDP の後に「貨物を受け渡す場所」を続けるのが作法です。
例えば、門司(もじ)から大連(中国)まで貨物を運ぶ(門司側からみれば「輸出する」)、大連のKNDK CORP社 の Dalian Warehouse (大連倉庫)で貨物を引き渡すのであれば、以下のように書きます。
Delivered なので、港の情報、ここでいう「門司港」「大連港」は出てきません。
大連の倉庫で貨物を渡し、その時の販売金額が USD 10,000.- (税込み)。
こういった情報が、この一行で表されています。
数千万円、数億円単位の取引であっても、この表記は同じです。
さて、それでは、 DDP の輸入通関は「誰」がどのように手配するのでしょうか?
DDP (ディーディーピー)と輸入通関|インコタームズ2020
前述のとおり、DDP の輸入通関は「売主」が行います。
これは、他のDグループ「 DPU 」「 DAP 」にはない厳しい条件です。
DDP の場合、輸入する国に現地法人がある、あるいは輸入者になれる代理店がなければ、普通は無理です。
在外の法人や個人が輸入者になれるルールが存在する国や地域もありますが、たいてい、ものすごく複雑な条件が付けられます。当然ですけどね。
買う側が何も意識せずに貨物が届く、全部「売主負担」という条件です。
ただ、よく考えてみれば、(価格交渉などがあるにしても)その代金を払うのは結局は「買主」ですからね。
税金の還付その他のメリットを「買主」は享受できないのです。
何でもかんでも DDP を求めるのは、トータルで損ですよ。手間がかからない分、売主はそのマージンをしっかり取るのがビジネスというものです。
DDP (ディーディーピー)と保険、そして危険負担|インコタームズ2020
DDP の解説では以下の通り「保険は売主の責任ではない」と明記されています。
ただ、ここは DDP に限らず、Dで始まるグループで勘違いや誤解が生まれやすいところです。
「危険負担」は「貨物を引き渡すまで」という条件なのですから、売主が保険に入るのが筋です。
しかし、CIF ほど保険に関する分担が明確ではないので、事故が起きてから無保険に双方気づき、トラブルに発展しないとも限りません。
ただし、金額にからむ箇所ですから、物流だけでなく営業部門との協議も必要です。下手に価格に注目されると面倒ですからね。その面倒の後始末を INCOTERMS (国際商業会議所)がしてくれるわけでもありませんし……。
「DDP、DPU、DAP」の3つは、「当然、売主が保険をかける条件」と勘違いしている人も多い。
ですから、「自社に不利な条件」「無保険」の懸念があるなら、売買契約時、あるいは契約の見直しの時期に営業部門と一緒に確認するのも一案です。
そうそう。
保険がかかっているかどうか心配なのであれば、いきなり客先、取引先と話をするのではなく、いつもオーダーを出している「保険会社」に相談しましょう。
保険会社から見れば、売主(シッパー)はお客さんですから、丁寧に教えてくれます。
「CIF 用の保険」とパンフレットに説明があったとしても、オプションを付ければ輸入国の内地(国内の指定場所)まで保険が掛かるのが一般的です。
コンテナ輸送の場合、開梱しなければ事故はほとんど起きないこともあり、(貨物や実績にもよるでしょうが)内地まで保険をかけても CIF と費用(保険料)は大きく変わらないでしょう。
保険屋さんも商売なのでね。
保険会社から教えてもらい、「これなら実質、無保険にはならないし、事故が起きても求償(きゅうしょう、賠償を求めることを業界の人はこう呼びます)に使える」と確認できたなら、慌てる必要はないのです。
DDP が FOB や CIF よりも使いにくい理由|インコタームズ2020
DDP は最高限度に「買主(買う側)」に有利な条件です。
これを実現できるのは、「売主が現地(輸入国)の輸送まで、支障なく手配できるだけでなく、輸入国の個人や法人と同じように輸入通関できる仕組みがある」という条件がそろった時でしょう。
となると、相当高いハードルです。
先ほどの例でいえば、「大連地域の運送だけでなく、税金その他も輸出者が負担する」という条件ですから。
たとえば、あなたが運送会社に勤めていると仮定しましょう。
ある朝、中国の会社からたどたどしい日本語で「こういう貨物を日本国内で横持ちして欲しい。関税も立て替えて払ってください。ベスト価格でお願いします」なんて言われても、簡単には金額や条件を提示できないでしょう?
こうなると、現地同士よりも「高いコスト」が提示せざるを得ないでしょう。さらに「前金を払うこと」「追加費用はこの価格表に従うこと」などと条件も付けられることでしょう。先が読めませんからね。
これが、FOB や CIF よりも DDP その他が「使われにくい」理由です。
まとめ: DDP はDグループの中で、最も「買主」に有利な条件です
今回の内容をおさらいしておきます。
CIF、CIP よりも、さらにDAP、DPU よりも「買主に都合のよい」条件が DDP です。
ただ、途中でも触れましたが、「売主のコスト(費用)」+「買主のコスト(費用)」を最小にする(コストミニマム)、という観点からすると、はたして正解なのか。
各プレーヤーはマージンなしに動けない、という価格(コスト)の仕組みが判っているなら、そうではない、とわかりますよね。
その意味では、「 CIF 」や「 CIP 」がお互いに最もコストミニマム(費用がトータルで最小)になる、と仮定するのが自然でしょう。お互いの国の費用をそれぞれが丁寧に検討できますからね。
もちろん、買う側に「手配した船を極力、自由に使いたい」(重量物で荷受けが特殊なケース、船をチャーターする場合など)という理由があれば、「 FOB 」で比較検討すれば良いでしょう。
結局、INCOTERMS よりも「商習慣」「貨物の特性」などに注目した取引形態を考える、というのが結局は無駄が少ないビジネスにつながるはずです。
簡単ではないですけどね。
参考:INCOTERMS 2020(インコタームズ 2020)一覧【最新版】
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