こんにちは。
とあるメーカーで貿易実務に関わって20年超の神高(かんだか)です。
インコタームズの2020年版が発表されました。
インコタームズの一つ、FOB について、「コンテナ輸送、航空便の輸送では FOB よりも FCA を使いましょう」と推奨している組織があることをご存じですか?
その団体とは、外ならぬインコタームズ( INCOTERMS )のルールを定めている ICC (国際商業会議所)自身です。
とはいえ、ぼくも実務者ですから、いまだに FOB と CIF が最も広く使われていることは知っています。
今回は、FOB(エフオービー)をFCA(エフシーエー)に切り替えるのが難しい3つの理由をお伝えします。
「普及が進まない」という観点からすると、最後の理由が大きいんですよね……。
【貿易】FOBじゃなくFCAを使うべきケースとは?|INCOTERMS 2020
FCA導入が難しい一つ目の理由は「営業上のややこしさ」です。
現在、実際に継続的に取引をし、貿易実務に関わっている人であれば、「そうか。ICCの推奨に従って、早速、客先に FOB から FCA への変更を新規契約分から申し入れてみよう!」とはならないと想像します。
なぜなら、商習慣で継続している取引の条件を変えるのは、売主、買主ともにストレスが大きい協議だからです。
危険負担、費用負担について互いに納得していると思っていた、詳細な内容にまで向き合うことになります。
ぼくは営業と貿易実務を両方経験していますから、どちらの気持ちも理解できます。
FOBからFCAへの変更申し入れは Berth Term(バースターム) の理解が大前提
FCA導入が難しい二つ目の理由は「バースターム( BT-BT )の理解が大前提であること」です。
FOB から FCAの変更の協議を客先、取引先と行うとしましょう。
そのとき、FOB 、FCA、Berth Termという3つの言葉の意味を整理し、特に危険負担の矛盾点を相互に合意してはじめて「この矛盾した状況を改善したいから、FOB から FCAに条件を変えましょう」と取引先と協議できます。
しかし、FCA が FOB ほど一般的でないため、客先は「よくわからないことを言ってきてどういう狙いなのか。うちに損な条件を提示しているのではないか?」と警戒するかも知れません。
客先が警戒して協議が進まないときの考え方|「無保険」を警戒しましょう
貿易実務に関わる人の立場からすれば、営業担当者がインコタームズにあまりに無頓着で不安を覚えるかもしれません。
もし対客先、あるいは社内でさえ検討や協議が進まなくて心配なら、損害保険会社(○○海上等、CIFで保険を頼む会社)に相談してみるのも一案です。
無保険の部分(期間、区間)がなければ実務的には問題ない、と判断できるかも知れません。
船積みまでのリスクをカバーするFOB保険という保険商品もあります。
こちらも、保険範囲をカバーするのに検討の価値があります。
- 詳しくはこちら:FOBでも日本側の保険を掛けるなら「FOB保険」を活用
危険負担を負う範囲で無保険になる箇所がなければ、実務的には許容できる可能性があります。
そもそも、FOB から FCA への変更が叶ったとしても、逆に買主がかけている(付保する)保険の詳細も再確認しておかねばなりません。
こちらがいくら気を付けていても、FCA に変えたとたんに客先のかけた保険とあなたがかけた保険の間が空き、無保険になる箇所が生じるようでは本末転倒です。
INCOTERMS の推奨に従ったからといって、ICC が何かを我々に保証、約束してくれるわけでもありません。
当事者の買主、売主でお互いに納得できる契約条件を協議しながら探していくのが筋です。
コンテナ船が Berth Term (バースターム)前提なのは定時運行のため
少し話を戻して、前述したBerth Term、あるいはそれと対になる FIO という用語をあらためて整理しておきましょう。
コンテナ船による輸送の場合、基本的に Berth Term しか選べません。
- Berth Term (BT-BT):船社(船)手配の作業者が荷役を行い、費用は船社負担(つまりは海上運賃に含まれる)
- FIO (Free-In-Out):荷主(陸)手配の作業者が船内荷役を行い、費用は荷主が負担
- 詳しくはこちら:【貿易】BERTH TERM の意味と使い方、背景を解説
コンテナ船が原則、 Berth Term しか使えない理由の明確な解説を読んだことはないものの、逆に FIO を使えない、というのがその答えでしょう。
コンテナ船による輸送は非常に厳しいスケジュールで管理されています。
一旦、港に入れば、12時間から、せいぜい数日で荷役を終え、出航し、次の港に向かいます。
たとえば、中四国や関西地区と韓国の釜山や仁川を結ぶコンテナ船の多くは1隻が1週間でループ運航しているくらいなのです。(ループ:毎週同じ曜日に同じ船が寄港する状態)
ある港で1日でも遅れれば、次の予定が順延していくわけです。
荷主(陸)の車両や荷役機器に影響されて運航スケジュールが遅れるようでは仕事になりません。
そこで、ガントリークレーン、荷役、港からコンテナの一時保管場所(CY、CFS)まで貨物を移動(横持ちとも言う)させるところまでの費用を船側が事前に算出し、運賃に上乗せして荷主から注文を受けているわけです。
FIO にしたら、極端な話、荷物ごとに違うステベ(荷役取り扱い業者)が来ちゃいますからね。
この「船側が主体的にスケジュールをコントロールする」契約条件を Berth Term (輸出、輸入とも、という意味を強調するため、BT-BTとも書きます)と呼んでいるわけです。
ちなみに、コンテナ船以外でも、決まった港に寄港しながら、定期的に運行されている船(Berth Termはライナーサービス Liner Service と呼ばれるときもあります)に用いられることがあります。
FCA の普及を妨げているのは FOB 、 CIF の絶大な知名度
ここまでの内容をまとめます。
「新規の顧客」、あるいは「新規の取引」について協議するなら、おそらく苦労しません。
でも、世の中をみるとそうなっていない。
FCA導入が難しい3つ目の理由は「FOB と CIF の圧倒的な知名度」です。
貿易実務の参考書やセミナーにおいて、FOB と CIF の説明は最初のクライマックスです。
そして、FCA や CIP の解説が続きます。
ひな鳥が最初に目にしたものを親鳥と認識するのと同様、だから普及しないのです。
ぼくが経験してきた限りですが、アジア地区では、FOB、CIF以外の INCOTERMS はまだまだ使われていません。
FOB と CIFの知名度、わかりやすさは圧倒的です。
具体的な商談の場面をイメージしてください。
実際のビジネスは TOEIC のリスニングテストのように、かっこよく、スムーズにいくとは限りません。
Berth Term を理解し、FOB を FCA に変更しよう、とすでに契約しているアイテムで申し入れるのは営業的な立場からすると、あまり気乗りしない交渉です。
買う側が強い場合は特に。
となると、INCOTERMS の適用に関しては、しばらくは現実的な解決策を求めていくとしてもやむを得ません。
そもそも、客先にだって FCA の本当の使い方や狙いに気づいていない実務者もいますしね。
ですから、繰り返しになりますが、現状の契約が FOB で心配なのであれば、取引先に申し入れる前に、まずは保険会社、乙仲業者と十分な協議や検討をされることをおすすめしたい。
ある程度の規模以上の企業で輸出を扱う部門と営業部門が違うなら、なおさらです。
結局は、売主、買主で商品を安心・安全にやりとりすることが目的なのですから、無保険にならなければ実務上は問題ない、かもしれません。
あなたの貨物が、無事にお客様に届きますように。