こんにちは。
とあるメーカーで貿易実務に関わって20年超の神高(かんだか)です。
以前の記事で、「FOB とCIF、各々、Free On Board、Cost-Insurance-Freightの略であることの紹介とコンテナ船輸送にFOB 、CIFを用いるべきではない」と国際商業会議所( ICC )がINCOTERMS 2010(2010年版)で推奨していることを紹介しました。
ではなぜ、ICC は FOB と CIFをコンテナ船輸送には使わないように推奨しているのか。
その理由は、危険負担にあります。
一緒にみていきましょう。
コンテナ輸送のFOB、CIFと危険負担|保険との関係とは?
INCOTERMSはICCの登録商標で、何度か改訂が行われて改訂年にちなんで「INCOTERMS 2010」といった呼び方をします。
最新が2020年版、一つ古いながらいまだに使用されているのが2010年改訂版の「INCOTERMS 2010」です。
2000年版以前、つまり2010年版よりも古い INCOTERMS 2000では、危険負担は FOB 、CIFともに「船の船側欄干(せんそくらんかん)を越えた時に」移転する、と定められていました。
これは非常に有名なフレーズで、世界中、長年にわたってこの表現が使われ、日本でもすっかり定着しています。
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海外営業、貿易実務等に携わった先輩方は、いまだにそう記憶されている向きも多いでしょう。
しかし、「 INCOTERM 2010 」における危険負担は違います。
2010年版では、FOB 、CIFとも共通で危険負担の移転は「貨物が本船の船上に置かれた時」です。
また、コンテナ船輸送に推奨されている FCA/CPT/CIP の場合、
- FCAならば「貨物が買主指定の運送人の管理下に置かれた時」
- CPT、CIPならば「貨物が売主指定の運送人の管理下に置かれた時」
となっています。
この文言では、コンテナ貨物が港近くの保管場所(CFS: Container Freight Station、CY: Container Yard)に輸出前に一旦、置かれることが考慮されています。
同時に、運賃をどちらがどこまで負担するかが考慮されています。
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ここで、「指定の運送人の管理下」とは、通常 CFS、CY を指しています。
これらを総合して考えると、コンテナ輸送に FOB 、CIF を用いると危険負担の移転の時期は、「船上に置かれた時」、INCOTERMS 2000で契約しておれば「船側欄干を超えた時」となります。
しかし、これでは、輸出港の CFS や CY から船の間の輸送中に起きた問題の危険負担が曖昧になってしまいます。
コンテナ船で輸送するとき、運賃の取り決めは Berth Term(バースターム) ですから、CFS や CY から船に積まれるまでの費用(横持ち費用)は海上運賃に含まれます。
となると、危険負担と費用負担の線引きがずれます。
たとえば、本船船積み直前に起きたダメージを誰が取り扱うのか、議論の余地が残る、というわけです。
もちろん、「契約の自由」があるため、契約書に INCOTERMS とは別の定めを置いて合意しておれば、その内容にしたがうことになります。
とはいえ、可能であれば、契約の時点でこの手の議論の余地は消しておきたいところでしょう。
そもそも、貿易の「危険負担( risk )」とは何か
INCOTERMS 原文では、危険負担はシンプルに “risk” と表されています。
「所有権」と似ているのでややこしいものの、異なる概念で、俗な言い方をすれば「何かあった時に誰が対応するのか」というのが危険負担です。
どんな契約でも、何も無ければどうということはありません。
何もトラブルがなければ保険は使われないし、裁判になることもないわけです。
しかし、実際のビジネスでは頻繁ではないにせよ、問題が発生します。
タイのメーカーにテレビを300台を発注。
条件は CIF OSAKA PORT, JAPAN。
大阪港でコンテナを開けたらどこからか海水が入っており、そのうち20台がびしょ濡れで使い物にならなかった、としましょう。
損害を保険で補てんしたい。
その時に対処すべきは誰なのか。
日本側なのか、タイ側なのか、はたまた運んだ船会社なのか。
海上保険をかける時に、危険負担を意識する
あなたが商社やメーカーの資材部門に務めているなら、すでに経験があるかも知れません。
FOB でも CIF でも、さきほどのタイのテレビが水濡れしたケースは、日本側が損害保険会社窓口とかけあわねばなりません。
FOBならば保険を日本側からかけるのが買主なので当然として、CIF でも日本側はタイのメーカーに頼んで保険証書原紙を送ってもらい、損害保険会社の日本の窓口と協議することになります。
その理由は、危険負担は海上運賃や保険を誰が負担したかに関係なく、DDP( Delivered Duty Paid )など、Dで始まる条件以外は輸出港で船積みが行われて船内に置かれた時点、あるいはそれ以前の段階で既に危険負担が買主に移転しているからです。

手間がかかるし、なんとなく納得いかない。ウチは客なんだぞ!!
そう思うのも「ごもっとも」かも知れませんね。
でも、そういう約束事なのです。
もっと梱包を工夫できなかったのかな、などといろいろな雑念が生まれるでしょうが、ここは冷静に保険会社の窓口に連絡し、対処方法を検討してください。
引き取りが遅れれば、デマレージに悩まされる危険性も高まります。
取引先との梱包方法の再協議や費用負担の交渉は、その後となっても仕方ありません。
FOB と CIF から始める、の真意
ここまでの内容をまとめておきましょう。
過去の記事、「FOB とCIFから始める……」というタイトルは、コンテナ輸送が全盛の現代においては、ふさわしくなかった、かも知れません。
でも「FCA と CIP から始める……」とやると、貿易実務に関わられていない方に「何のこっちゃ……」と思われるだけで、この記事も将来に渡って読まれることはないだろう、という判断でこの着地点を選びました。
先行者利得、というと奇妙ですが、FOB と CIF の知名度に後発の「3文字」はなかなか勝てないのは事実です。
また、何故、「船の船側欄干を越えた時に」という文言が長年変わらなかったのか。
こちらも、いまだに適用されていると誤解している貿易実務担当がおられるかも知れません。
ネットで検索しても、こんなどうでも良い疑問に回答は用意されていないようです。
もしかしたら、ネット上で初かも知れません。
ぼくが勝手に想像してみるに……。
仮説:港に常設されたガントリークレーンなどない昔々、船に荷物を積む、あるいは降ろす、というのは人力や大きくて特殊な機械設備を使い、無理を伴う作業だったのではないか?
したがい、「船の船側欄干を超えた後に何か問題が見つかっても、到着した港で何とか対応してもらうしかないよ」「もう一回輸出港で降ろしたら、また別の問題が出てくるかも知れない」という状態だったのではないでしょうか。
クレーンやワイヤーなどの荷役設備、資材が良くなった現代において、「船の船側欄干を越えた時に」などという定義は、ワイヤーが荷役中に切れた時くらいしか意味がありません。
ずいぶんとノスタルジックな定義のように思えます。
何故、2010年になるまで変わらなかったのか、不思議です。
最後に。
あなたがもし、貿易実務に就いて日が浅いのであれば、これだけは読んで帰ってください。
あまり愉快な状況ではないですが、きっと将来、お役に立てると思います。