貿易実務で使われている用語・略語に INCOTERMS (インコタームズ)の「 Free Alongside Ship(フリー アロングサイド シップ) 」があります。
2019年9月に発表された11種類のINCOTERMS(R) 2020 (10年ぶりの改訂版、2020年1月発効)でも残されましたが、ずいぶんと古くからある上に「きわめて特殊な条件」です。
コンテナ船や航空機の輸送で使えないのはもちろん、在来船(貨物船)であっても様々な条件がそろわないと使う機会はないでしょう。
.jpeg)
今回は、そんな FAS について、一緒にみていきましょう。
なお、INCOTERMS 2020(インコタームズ 2020)の書籍をベースにプレゼン資料(パワーポイント)を作っているので、必要に応じてダウンロードしてご利用ください。(パスワードは”busitable”です)
FAS (エフエーエス)の意味|インコタームズ2020
定義: FAS は「 Free Alongside Ship」を略した INCOTERMS(インコタームズ) です。
ここで、おのおのの言葉は、このようなイメージで理解しておいてください。
- Free = 「特定の場所」で輸出者の手を離れる、どこかといえば……
- Alongside Ship = 船側(せんそく)。船の真横(陸地、あるいはバージ、はしけ)
ざっくり言えば、日本から貨物を輸出するのであれば、「買主が用意した本船(ほんせん)の横に貨物を運び入れたら売主の責任は終わり」という条件です。
ICC が発行した英語版の INCOTERMS 2020 の解説書にはこう書かれています。
FOB よりもさらに「買主」側の負担が大きい条件で、貨物(荷物)の積み込みを「買主」側で手配する必要があります。
.jpeg)
FOB の場合、貨物の積み込みまでが「売主」の責任ですからね。
FCA は「買主」側によほどの能力がなければ実現できません。
日本から貨物を出すのであれば、少なくとも以下のような条件が買主側に必要でしょう。
- 日本に代理店、あるいは日本法人がある。
- 貨物の取り扱いに詳しい人員が日本国内に居る。あるいは、都度、日本に出張してくる。
- 輸送する船会社、本船がかなり日本の港湾、荷役などの事情に精通している。
売主は輸出通関、船の側(そば)まで貨物を運ぶ責任を担っているとはいえ、ほとんど輸出であることを意識せずに販売できる条件ですから、「買主」にかなりのスキルが必要になるのです。
FAS (エフエーエス)の使い方|インコタームズ2020
契約書や船積書類(インボイスなど)に書く時は、FAS の後に「貨物を受け渡す場所」を続けるのが作法です。
FOB の場合、「 FOB YOKOHAMA, JAPAN 」など習慣的に港自体、あるいは都市名を書いている人が多いのではないでしょうか。
FAS も基本的には同じで問題ないわけですが、船便を「買主」が手配するのでできるだけ契約時に「船積する場所」を具体的に想定しておくのが買主に対する「思いやり」となるでしょう。
というのも、買主側もコストの見積を船会社に依頼するはずだからです。
横浜港、というよりは、仮であっても「横浜港 山下ふ頭 (Yamashita Pier, Yokohama Port)」といった情報を事前に渡してあげられるなら、買主側もコスト試算がしやすくなるでしょう。
たとえば、こんな具合です。
山下ふ頭の在来船バースに係留した船の船側までを売主が負担、その時の販売金額が USD 50,000.- 。
こういった情報が、この一行で表されています。
数千万円、数億円単位の取引であっても、この表記は同じです。
.jpeg)
この後に 「 subject to … 」で条件を付けて細かいことは話し合いで変わるかもよ、みたいにしておくのも FAS なら現実的でしょう。コンテナなどと比べて、あまりに不確定な要素が多いですからね。
さて、それでは、 FAS の輸入通関は「誰」が負担するのでしょうか?
FAS (エフエーエス)の輸出入通関|インコタームズ2020
2020年版の ICC の解説書「Export/import clearance 」欄では、FAS は以下のように明記されています。
ざっくり訳すと「FAS では輸出国で求められる一切の輸出通関に関わる費用を負担しなければならない」ということになります。
そのあと、「買主からの求めに応じて輸入に必要な資料等を渡さなければならない」との記載もあります。
.jpeg)
このあたりは、貿易に少しでも関わっていればイメージしやすいと思います。基本、FOB と同じです。
FAS (エフエーエス)のと保険、そして危険負担
FAS の解説では以下の通り「保険は売主の義務ではない」と明記されています。
他のサイトや書籍では「 However 」以降の部分はあまり注目されていないと思いますから、一緒にみておきましょう。
.jpeg)
このままだとわかりにくいので、スラッシュを入れてみます。
これをつなげると、「しかしながら、買主から要求があったときは、危険負担、費用負担は買主側としても、売主は保険を掛ける上で必要な情報を買主に提供しなければならない」となります。
.jpeg)
at one’s A, B and C の部分がややこしい……。
ですが、自分で保険を掛けたことがあれば、想像できますよね。
要するに売主は、買主が必要とするならば、貨物の情報を随時、連絡するようにします。
インボイス、パッキングリスト、使えそうな船の候補や日本側の船舶代理店の情報、その他の法令で制限があるならその検査証や証明書などが該当します。
無保険のゾーンが出てこないように売主側から買主をサポートするのも、FAS においては大切です。
FAS (エフエーエス)の船や飛行機を最後に選ぶのは「買主」
FCA の場合、船便や航空便の費用を払うのが「買主」である以上、最後の選択権は「買主」側にあります。
この点は、ぼくのようにサラリーマンとして貿易実務に関わっているとボンヤリしてしまいがちなので、あえて強調しておきます。
.jpeg)
ビジネス、プライベートともそうでしょう?原則として、「お金を払う人が選ぶ」のです。
FAS の場合、最後に船便を選ぶのは「買主」側です。
売主が船の予約(ブッキング)を手伝うことはあっても、運賃を交渉するのも発注を決めるのも「買主」側の仕事になります。
FAS を実現するために日本国内に現地法人や代理店を立てる(用意する)買主が一般的でしょうから、うまくコミュニケーションを取りながら仕事を勧めるようにしましょう。
まとめ: FAS (エフエーエス)の特殊性は DDP にも劣らない
今回の内容をおさらいしておきます。
もっとも「売主」に厳しい DDP の輸入者が「売主」である、というのはかなり特殊な要求です。
どうように、FAS の「売主は船の側(船側)まで貨物を運べばOK」というのもかなり特殊であることは、具体的な貨物をイメージしてもらえばおわかりいただけるでしょう。
船側に「本船クレーン」や「扱う貨物を簡単に積み降ろしできる装置」などがなければ FOB、あるいは CFR、CIF などでなければ現実的に契約できないからです。
貨物は重量物、巨大なプラントなど、買主側もその荷役や輸送方法に詳しいものに限られるでしょうね。
.jpeg)
木箱一つ、あるいはコンテナ数個であっても、 FAS 条件ってのはあり得ないですからね。
INCOTERMS より、「契約書」と「商習慣」が「売主」と「買主」の信頼をつくります。
ICC や INCOTERMS が何かを保証してくれるわけでもないので、現実をみながらうまく対応しましょう。
参考:INCOTERMS 2020(インコタームズ 2020)一覧【最新版】
本日はお越しいただき、ありがとうございました。
あなたの日々の仕事で、少しでもお役に立てますように。
ご質問などがあれば「こちら」からどうぞ。
この記事を応援(シェア)していただければ、励みになります。
.jpeg)
Twitter、Facebook 何でもけっこうです。よろしくお願いします。






