こんにちは。
地方都市のメーカーで貿易実務を20数年やっている神高(かんだか)です。
在来船(ざいらいせん)という貿易用語を聞いたことがありますか?
電車じゃなくて、船の方です(笑)。
「在来船」とは、「コンテナ船ではない」船の中で、特に機械装置や重量物、鉄板やスクラップなどを運ぶ船のことを指しています。
昔ながらの「貨物船」をイメージすると、だいたい合っています。
真ん中に「ホールド」と呼ばれる大きな貨物室を持っています。
写真をみていただくのが早いですね。
鈴与海運様のサイトから。
運ぼうとする貨物がコンテナ輸送できるサイズを超える場合、在来船(バルク船、貨物船とも呼びます)による輸送を検討する必要があります。
しかし、普段、コンテナ船による輸出に慣れている方は、逆にイメージしにくい点があります。
今回は在来船で用いる用語や注意点などを一緒に確認しておきましょう。
コンテナでの輸出では、BT-BT や FIO を意識しませんからね。
在来船の運賃の見積書には BT-BT、FIO、FI-STなどが記載されている
コンテナ船による輸出入は、FOB、CIF に関わらず、BT-BT( Berth Term、バースターム、Liner Term と呼ぶこともあります)なので、これらの用語の意識をする機会は少ないでしょう。
なぜなら、コンテナ船による輸送は、自動的に BT-BT(バースターム)だからです。
一方、在来船は荷役(にやく、にえき、貨物のつみおろし)を船側が用意するのか、あるいは陸側が用意するのかを明確にしなければ、運賃を算出できないため、見積書にはいずれかの条件が書かれています。
Berth Term は、船から見て「船側で港の荷役を用意する」ことを意味しています。
これは、別にボランティア、無料で手配する、ということではなく、「運賃に含んで見積提示しますよ」というのが意図するところです。
一方、BT に対応する用語はFIO(読み方:エフアイオー)。
船が荷役を用意しないので、陸側から荷物のハンドリングを用意するしかありません。
いずれも、「船から見て」という視点が大切です。
船を運航する側に立つと、BT-BT、FIO のメリット・デメリットの理解が深まります。
なぜ、コンテナ船は BT-BT 前提で運賃を見積するのか?
想像してみてください、「定期スケジュールで決まった港に寄る船」と「不定期スケジュールでバラバラの港に寄る船」の立場の違いを。
「港の荷役をコントロールしたいのが BT-BT」「港の荷役を陸側に委ねたいのが FIO」という理解でもよいでしょう。
一般的に、十分なクレーン能力(別途、海上クレーンなどを呼ぶ必要がない)を持つ船の場合は BT-BT で見積提示できます。
たとえ港に常設の荷役設備がなくとも船に備え付けられたクレーンを使えば、安全かつ安価に荷役(積み下ろし)を行えるからです。
一方、クレーン能力のない(船に荷役装置がない、あるいは足りない)船の場合は、FIO条件で見積提示されるのが一般的です。
これは、船側から見知らぬ土地の荷役業者に見積を取っても、想定されるような価格が提示されるかどうか、わからないことが主な原因です。
船が荷役を手配する責任を負うなら、少なくとも荷役をする国内に現地法人や代理店がなければコストの試算さえ高いハードルです。
しかも、荷役をする業者(ステベ、stevedore – ステベドアとも呼ばれます)は、聞いたこともない一見さん(いちげんさん、初取引)の船会社が本当に荷役費用をきちんと払ってくれるのか、心配します。
そんな不安な契約をお互いにするくらいなら、普段、取引のある荷主に払ってもらおう、という考えに至るのは自然な流れです。
FI-ST は Free In & Stowed and Trimmed の省略形
ちなみに「 FI-ST 」は Free In & Stowed and Trimmed を指していて、一般的に輸出港の条件を表すときに条件です。(輸入港が ST、という意味ではありません)
ST は輸出港の荷役だけでなく、船内作業(ワイヤーを張って固定したり、貨物が多い時に位置を変えてバランスを調整したりする作業)も陸側(多くの場合、売主)が負担すること、という意味です。
船の中の作業まで、輸出者側で手配(費用負担)してくださいよ、という見積の条件です。
FIO は経験者向け、輸入港の事情が不明なら BT-BT の船を選びたい
輸出、という仕事は、どうしても日本側の港の事情にばかり目が向きがちです。
しかし、輸入者(買主など)が輸入港でどのようにして貨物を受け取るか、という観点も欠かせません。
日本側では、バージや艀(はしけ)などで横持ち(=よこもち、国内の輸送)して本船(=ほんせん、輸出する船)に貨物を積み込みます。
同様に、輸入港でも同じ貨物をバージ、あるいはバース(=埠頭、ふとう)などに降ろす作業が不可欠です。
クレーン能力のない船に何とか積めたとしても、輸入港でスムーズに荷揚げできないのではトラブルのもとになりかねません。
在来船で本当に怖いのは「滞船料(たいせんりょう)」です。
在来船の場合、前の荷物を積んだまま停泊すれば、次の仕事に向かうことができません。
その機会損失( opportunity loss、 「機械」損失ではありません)の埋め合わせは荷主にしてもらいますからね、というのが滞船料の裏にある意図です。
特に、輸入港の準備が不十分で何日も貨物が引き取りされず、バースに貨物を陸揚げすることもできない、となると、大変な経済的負担が発生します。
見積書に詳細までは書かれなくとも、在来船には必ず滞船料の基準、規定があります。
事前に確認し、特に初回は輸入者側とも十分な協議をしておくことをおすすめします。
在来船を得意とする日本の船社 NYK系、MOL系、K-LINE系
コンテナ船による輸送が全盛の現在、街を走るコンテナのロゴから船会社を知る機会もあることでしょう。
日系の日本郵船( NYK )、商船三井( MOL )、川崎汽船( K-LINE )の他、台湾のエバーグリーン( EVERGREEN )、陽明( YANG MING )、万海( WAN HAI )、欧州の MAERSK、CMA CGM、MSC などがコンテナを運ぶ船社(せんしゃ)として挙げられます。
この中で、日系の3社はONE( OCEAN NETWORK EXPRESS )というジョイントベンチャーをシンガポールに設立し、コンテナ部門を2018年以降は統合しています。
日系3社はコンテナ船だけでなく、タンカー(石油や化学製品を輸送する船)、バルカー(鉄鉱石や穀物などを輸送する船)、LNG船(液化天然ガスを輸送する船)など、多数の船を所有しています。
その中に、在来船を管理する子会社をいずれも持っていますので、リンクで紹介しておきます。
いずれも社名にグループの名を残しているのでわかりやすいでしょう。
その中で、NYKバルクプロジェクトは、長い間、「日之出郵船(ひのでゆうせん)」という名称が使われてきたため、こちらの方がなじみがあるかも知れません。
2013年10月に社名変更をしています。
いずれも本船クレーン(船に搭載されたクレーン)のある船団(フリート、fleet とも)を所有しており、コンテナでは運べないサイズの貨物の輸送に対応しています。
在来船は、コンテナ船が使っているバースには寄港できない、あるいは時間が制限される、といった事情があります。
たとえば、関西地区では、神戸、大阪に停泊する在来船にバージ(barge、はしけ(艀)、台船などと呼ばれます)という巨大な浮体で横持ち(国内、近距離の輸送)をして積み込むケースが多くあります。
※ 余談ですけれど、「世界の果てまでイッテQ」、荒川静香さんのイナバウアーもバージ上でした。
各社、営業上の連絡先は公式サイトに掲載しています。
ただ、初めてコンテナに入らないサイズや重量の貨物を輸出する、ということであれば、サイズだけでなく荷役や通関の専門的な知識が必要なケースもあり得ます。
そんな時は、普段、コンテナによる輸出入でやりとりしている乙仲業者に仲介してもらい、準備を進めると安心でしょう。
たとえば、重量貨物をどこでどのタイミングで通関するか、といった問題はシンプルですが、ケースバイケースの判断が必要です。
もちろん、在来船用の貨物を日常的に輸出するようになれば、船会社、あるいは船会社の船舶代理店と直接やりとりして特に支障はありません。
在来船を使った輸送では、「乙仲(通関業者)」と「物流部門」がチームで「輸入者」の対応をする、という感覚がコンテナによる輸送よりも強くなります。
バースタームよりも港側で用意することが増えるので、当然ですけどね。
まとめ:コンテナ船にはない、在来船輸送の面白さと難しさ
今回、お伝えしてきた内容をおさらいしておきます。
在来船による輸出はコンテナよりも多種多様なので、貨物にしても積む船にしてもいろいろなケース、パターンがあります。
そのぶん、貿易実務に関わる人の中には、在来貨物の方が変化があって楽しい、という人もいるくらいで……。
たしかに、大規模なプラントや設備をはるか遠く、インドや中東、欧州に輸送する仕事は費用が大きいこともあり、達成感も格別でしょう。
在来船の場合、コンテナ輸送とはまた違った発想、考え方で貨物が運ばれています。
あなたの次の輸送プロジェクトが成功しますように。
最後に。
もし、あなたが貿易実務に関わって日が浅いのであれば、この記事だけでも読んで帰ってください。
将来、きっと役に立ちます。