こんにちは。
とあるメーカーで貿易実務に関わって20年超の神高(かんだか)です。
メーカーで貿易実務に携わっていると、「再輸出免税」に接することがあります。
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「再輸出免税」とは、一定の条件を満たす貨物が輸入の許可の日から原則として1年以内に再び輸出される場合に、関税が免除される制度です。
メーカーに勤務しているのであれば、知っておいて損のない仕組みなんですよね。
なぜなら、製造業であれば、海外拠点と治具(じぐ、工作用のツールのこと)や測定器を一時的にやりとりする場合などに便利なルールとなっているからです。
ただ、貿易実務検定や通関士試験などでも出題される分野ながら、実際にどのような場面で使われるのか、わかりにくい。
ということで、少し具体例も挙げつつ、一緒にみていきましょう。
- 製造業で輸出案件や海外営業・貿易実務を担当している方
- 商社でメーカーのサポートや代理店の立場で仕事をしている方
- 商品ではなく、機械や金型、ジグ(治具)などを在外支店・海外工場となりとりしている方
そんな方々のお役に立てる内容となっています。
再輸出免税を利用すると、輸入消費税、関税が「免除」されます
税関の公式サイトで「カスタム君」が「再輸出免税」について説明してくれています。
この箇条書きだけ読むと、ほとんどの製造業が「当社も使えるかも !? 」となるかも知れません。
しかし、適当できるかどうかの判断は、個々の運用ルール「基本通達」を参照する必要があります。
今回、確認している「再輸出免税」の基本通達はこちらにあります。
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貴社が取り扱いされる品目は、対象品にあったでしょうか?
ただし、対象品リストにあったとしても、貨物の種類と同様、「同一性」という条件がポイントとなります。
「1年以内に再輸出される」と「同一性」が適用できるかどうかの分かれ目
この中で、「1年以内に再輸出される」と「同一性」という文言は非常に重要です。
これらを満たせなくなると、一旦免除された「輸入消費税+関税」が徴収される条件となるからです。
1年以内に再輸出される貨物、が意味すること
「1年以内に再輸出される」に、あまり難しい論点はありません。特に輸入と輸出の税関が同じであれば容易です。
「この貨物は過去に再輸出免税を受けて輸入した貨物」ということを税関に把握してもらえるなら、あとの手続きはスムーズに進みます。
輸入した時の税関の許可書などとともに、輸出申告を行うことになります。
一方、輸入と輸出の税関が異なる場合は紐づけ(ひもづけ、どれとどれが関連しているかの確認)が簡単にできません。
このケースは、輸出した税関と輸入した税関の間を「再輸出を行う者」が仲介しなければなりません。
輸出した税関が「輸入許可書」に「輸出済み」の記載を追加してくれますから、その書類を輸入した税関に提出して、一連の「再輸出免税」手続きは完結となります。
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細かい規定ですけど、この書類の提出には、再輸出から1か月という期限が設定されています
同一性が保たれた貨物、が意味すること
一年以内、と比べると「同一性」は、貨物によってはやっかいです。
「輸入」した貨物と「再輸出」貨物が同じものである、ということを税関に認めてもらわねばならないからです。
ここで、もう一度、「基本通達」を参照してみましょう。
すると、「時計、猟銃、ゴルフクラブ等機械番号、製造番号等により物品の同一性の確認ができるものは免税申請書に、当該番号を記載しておくこと ( 関税定率法基本通達 17-8-3 )」とあります。
なぜ、唐突に「猟銃」が出てくるのか、よくわからないものの、いずれにしても、一般的な機械や装置を輸出入されているメーカーであれば、製造番号、型式などの刻印やプレートがあるため、それらを記載しておくことで「同一性」の確認ができる、とこの基本通達は明示してくれています。
実際、これまで関わってきたケースでも、税関職員の方は、まず刻印やプレートなどが入った写真や証明書と現物のそれらを比べることで、現物の同一性の確認をされます。
これら二つの条件が揃えば、海外の工場とやりとりする治具(じぐ、製造用のツール類)、測定機器、テンプレート(模範になる型や板の類)などを免税でやりとりできるようになります。
なお、こういった取引は売買ではないので、インボイスには「 NON COMMERCIAL VALUE 」「 CUSTOMS PURPOSE ONLY 」と二行にわたって記載するのが一般的です。
この文言は「売り物ではないので、金銭のやりとりは発生しません。インボイス価格は輸入通関に使用するのみです」ということを表しています。
通常の売買では、「再輸出免税」制度は使いにくい
便利な制度ながら、大量に売買される製品、商品にこの制度を使うのはおすすめしません。
というのも……。
書類、同一性の確認手続きが大量の貨物を扱うには相当、煩雑であるのと、輸入~輸出を通じて、実質、輸入消費税は免税されるからです。
輸入時に、消費税をいったん税関に納付するものの、帳簿上の「仮払消費税」と「仮受消費税」がバランス(差し引き)されて、実質、消費税を負担する必要はなくなります(輸出額が多い企業は消費税が還付されています)
架空の輸出をでっちあげる手口なんですよね
再輸出免税には、乙仲業者の負担を低減する効果がある
では、この再輸出免税制度はいつ、どのように使うと便利なのでしょうか?
たとえば、1千万円の特別な測定機器、あるいは計測用の治具を海外工場と日本の工場とで定期的にやりとりしているとします。
このとき、免税を使わなければ、1千万円x10%=100万円の輸入消費税(内国消費税と地方消費税の合算)を一旦、税関に払わねばなりません。
乙仲業者(通関業者)にもよりますが、この輸入消費税は乙仲業者が立て替え払いするケースがあります。
輸入許可には「輸入消費税+関税」の納付後、という条件が付けられているため、迅速な手続きのため、書類の提出、税関検査(発生した場合)などと平行して、税金の建て替え納付を代行してくれるからです。
乙仲業者の規模や扱い量によっては、一時立て替えがかなりキャッシュフロー上(金まわり、資金のやりくり上)負担になることもあります。
今回は100万円ですが、仮に1億円の測定機器なら、輸入消費税は実に1000万円にもなります。
免税になれば、この資金繰りを考えなくて済みます。
まとめ:再輸出免税、適用可否は乙仲業者、税関と相談を
ここまでの内容をまとめます。
別に、税関を恐れる必要はないんですよ。
自社通関をしている場合を除けば、こういった専門的なしくみについて、メーカーや商社は税関と直接話をする必要はありません。
乙仲業者(フォワーダー)と打ち合わせできる程度に「原則」と「例外」を知っておけば良いのです。
個別の対応について、乙仲業者に依頼し、税関と相談しましょう。
適用できるかどうかは、あなたの扱う品物や契約条件などに拠りますからね。
この再輸出免税は、もし「同一性」を証明できるなら、それほど難しい手続きではありません。
資金繰りが楽になる方向の特例措置なので、再輸出する貨物が多いのであれば、挑戦されてはいかがでしょうか。
最後に。
もし、あなたが貿易実務にかかわって日が浅いのであれば、この記事だけでも読んで帰ってください。
きっと、将来、役に立ちます。






