こんにちは。
とあるメーカーで貿易実務に関わって20年超の神高(かんだか)です。
毎日届くフィッシング詐欺メール、面倒ですよね。
取り込み詐欺師( confidence trickers )からのメールが本物の問い合わせなのかを仕分ける作業、まじで勘弁してほしい。
ぼくの手元に届く中でちょっとしたブームなのは、特定の国を代表するようなコングロマリット(conglomerate、巨大な企業体)の Purchasing Manager からの引き合い( inquiry )です。
「貴社の製品に興味があるので、カタログとプライスリストを送って欲しい」と。
いやいや、「どの分野」の「どのような仕様」の商品が「どのくらいの納期」で必要なのか書いてない時点でおかしいでしょう。
しかも、メールアドレスが「 @outlook.com 」「 hotmail.com 」なんてこともザラです。
さらに、不気味なクラウドサービス風のリンクが貼られていることもあります。
ほかにもいろいろチェックポイントはありますけれど、phishing mail 詐欺師にヒントを与えてもよろしくないので、このへんにしておきます(笑)。
まあ、そんな見え見えのフィッシング詐欺メールなら、Outlook(メールアプリ)経由でメールサーバーを管理するマイクロソフトに通知を入れるなりして、ゴミ箱にオサラバすればいい。
しかし、そうでない微妙な新規取引もあるでしょう。
そこで、そんな時に考慮したい「支払い条件」について検証してみましょう。
ジェトロの「国際的詐欺事件について(注意喚起)」も参考にしています。
【貿易】取り込み詐欺を防ぐ支払い条件とは?|国際的詐欺事件について(注意喚起)

ジェトロがまとめてくれている国際的な詐欺事件の中で、2番の「貿易取引型詐欺」がいわゆる「取り込み詐欺」への注意喚起になります。
売主(うりぬし)側からみれば、商品・製品だけ取られてしまって代金を払ってもらえない、という状態。
ヤフオクやメルカリで時々問題になる事件を国際的な貿易で行うケースです。
そんな時に使いたい3つの支払い条件は以下です。
- 全額を現金前受け(電信送金 T/T, Telegraphic Transfer )
- 原価相当を前受け、残りは送金か L/C (信用状)
- 全額を信用状決済( L/C, Letter of Credit )
順に確認しておきましょう。
全額を現金前受け(電信送金 T/T, Telegraphic Transfer )|支払い方法①
全額を現金前受け(電信送金 T/T, Telegraphic Transfer )。
これが最も「売主」からみれば手堅い、安全な取引条件です。
商品・製品の船積をする前に、全額が銀行に振り込まれた状態になりますからね。
しかし、「買主」側からみれば、怖くて仕方がない条件でもあります。
お金を払ったのに、商品を送ってくれない、かも知れない。
まさに「ヤフオク」や「メルカリ」で問題となる取引の国際版です。
ですから、「買主」側は全力でこの条件は飲めない、と反論してくると予想されます。
その時、もし売主側がたとえば TOYOTA や SONY のような巨大企業であれば「すみません、会社方針で変えられません( due to the company policy )」と伝えれば済みます。
「残念ですが、お取引する前提が整ってないですね」ということで。
とはいえ、ぼくの所属するような中堅・中小のメーカーや商社であれば、妥協点を探すことになるでしょう。
新しい販路(販売ルート)につながるかも知れないのに、「うちは前金しかだめなんで」なんて全件、お断りを入れていたら仕事につながりません。
では、具体的にどうするか。
原価相当を前受け、残りは送金か L/C (信用状)|支払い方法②
原価相当以上を前受け、残りは送金か L/C ( Letter of Credit、信用状)。
もし、あなたが扱う製品、商品が「オーダーメード」あるいは個々のお客様向けに仕様(スペック)の調整や変更をともなうアイテムであれば、現実的な妥協案になるのがこの支払い条件でしょう。
「前受けを取り下げてください」と買主から再検討の依頼があったときでも
- すべてのお客様に対して、着手前に支払いをお願いしています。
- 材料の手配や図面の作成などでどうしても必要なコストの一部に充てさせていただくからです。
- 添付の請求書により支払い処理をお願いします。
なんて伝え方ができます。
前金の比率は、別に30%でも50%でも構わないのですが、原価に相当する以上の額の前金を受けとっておくことで、残金の代金回収でトラブルが起きてもいろいろな選択肢を残せます。
特に、トラブルがあった時の交渉で有利に働くのは大きい。
契約書の文言ももちろん大切ではあるものの、ことが起きても「受け取っている代金をどう処理するのか」という交渉にできますからね。
前受金がなければ、ゼロから「いくらもらえるのか」を相手と交渉せねばなりません。
全額を信用状決済( L/C, Letter of Credit )|支払い方法③
全額を信用状決済( L/C, Letter of Credit )。
信用状決済にしておけば、買主、売主ともに銀行への手数料は発生しますけれど、ひとまず安心です。
もちろん、仲介する銀行(とくに現地の銀行)が買主と同様に怪しい(リスクがある)ということであれば、開設銀行についても条件を付ける必要があります。
とはいえ、自前で銀行の信用調査までするのは非現実的でしょう。
そこで、あなたが売主側であれば、取引している銀行(日本の銀行)の外国為替部門に問い合わせしてみましょう。
手数料はかかりますが、海外銀行とのネットワークを用いて信用調査をしてくれるサービスを紹介してくれるはずです。(サイレントコンファーメーション(Silent Confirmation)とも呼ばれます)
買主側が勝手に買主側銀行の与信を調べるので、Silent なんでしょうね。
【貿易】取り込み詐欺を防ぐ支払い条件とは?|まとめ

ここまでの内容をまとめておきます。
金融商品、投資サービスなどの詐欺では「ポンジスキーム」という有名なテクニック(心理的な手法)があります。
和牛預託商法とかオレンジ共済とか、最近だと仮想通貨にまつわる大きな事件が韓国で報道されてますよね。
あるいは、ポールニューマンとロバートレッドフォードが詐欺師を演じた映画「スティング」をご覧になったことがあれば、さらにイメージしやすいかも知れません(舞台は「競馬」でしたけれど)。
小さい勝負で儲けさせることで、徐々に信用を得ていく。(だから、詐欺のことを confidence tricks と呼びます)
つまり「ポンジスキーム」は、最初は少額の出資でもきちんと高い配当を出し、信用させた後で大きな金額をだまし取る、という自転車操業(ねずみ講)の一種です。
たとえば、こんなパンフレットを訪問販売の営業マンから受けとったら、どうしますか?
「自分年金、つくりませんか? 年利30%を毎月配当。 つまり、最初に100万円を預けておくだけで、毎月2万5千円の配当がずっともらえます!もちろん、元本保証でいつでも解約自由。さらに、お友達に紹介していただけるなら、配当の上乗せボーナスも!これなら、老後の2千万円問題も安心ですね」
すぐに引き取ってもらってください。間違いなくポンジスキーム(詐欺)です(笑)。
こんな「わかりやすい書き方」は、していないでしょうけどね。
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この「最初は少額の投資でも、高い配当を出すことで信用させる」というところは、貿易での「取り込み詐欺」でも注意しなくてはいけないポイントです。
新規の取引先が、最初は少額の取引で始まり、きちんと支払いしてきていたのに、途中から支払い条件の変更(特に、全額後払いや月締の後払い)を申し入れてきた。
そんなときは、少し冷静になって「ポンジスキーム」で使われている心理学に、少し思いをめぐらせてみましょう。
問題は「好意( liking )」と「一貫性( commitment )」です。
人は、状況が変わったとしても、一度信頼した相手を信頼し続けようとするバイアス(思い込み)がかかります。
それでも、会社として当該買主と取引を続けたい、ということであれば支払い条件を緩和するのも一案でしょう。
ただ、意識しておかなければならないのは、個人でも会社でも「これ以上、関係を継続、維持しなくてもかまわない」と腹を決めてしまえば、どんな心無い選択でもできてしまう、という点です。
だから、そんなときは申し入れしてきた買主と十分にコミュニケーションしましょう。
「全額後払い」以外の解決策を一緒に探せたなら、おそらく長く続けられる関係ですから。




