こんにちは。
とあるメーカーで貿易実務に関わって20年超の神高(かんだか)です。
貿易実務の中に「仮陸揚げ(かりりくあげ)」という「積み戻し」に似ているようで違う仕組みがあります。
「仮陸揚げ」って、一般名詞のようでいて、実はきちんと「関税法」に規定された輸入に関する手続きなんですよね
「仮陸揚げ」とは「貨物や船、飛行機に取り付けられた機械類(船の世界では艤装品(ぎそうひん)と呼ばれます)を一時的に日本国内に持ち込むこと」を意味します。
メーカー、特に船や飛行機に使われる装置(舶用機器、航空機器)を製造するメーカーにとって、修理(修繕)のときに便利、有用な制度です。
該当するメーカーにお勤めであれば、「時間があるときに」調査して、使えないか検討しておいてください。
「緊急のとき」こそ、メリットの大きい制度ですからね
仮陸揚げ(かりりくあげ)とは緊急の積み替え、機器の修理のために規定されたルール
「関税法第21条」(通関士の試験を受ける方以外は第何条まで覚える必要はありません)に、「仮陸揚げ」がどのような場合に認められるかの規定があります。
大切なところをピックアップしましょう。
② 陸揚げが次のいずれかの場合に該当し、一時的なものであること。
②に付随して、どのような場合に「仮陸揚げ」が認められるか、(イ)~(ㇳ)と7つの理由が設定されています。
政府が用意してくれている e-gov の該当箇所に「審査基準」も明記されています。
この中で、船や飛行機に用いる機器を製造しているメーカーやそれを扱う商社に関係あるのは、おそらく以下の二つ(ハとニ)でしょう。
ニ 船舶等のぎ装品又は属具のうち取締上支障がないと認められるものを修理等
ここで、「船用品」は船で使われる燃料食料等の消耗品、据え付けされる機械などを指します。
「機用品」も同様の意味です。
違いは取り付けらえる対象が船舶ではなく、航空機であることです。
一例として、船(船用品)でどのように使えるかを説明します。
仮陸揚げ(かりりくあげ)が使える事例|船舶(舶用品)の場合
船は時々、メンテナンスのために造船所(ドック=dock とも呼ばれます。人間ドックの語源でもあります)に入り、船全体の修理や保全を行います。
例として「常石造船修繕部」のサイトをご紹介しておきます。
写真や説明にある通り、塗装の塗り直しや損傷箇所の補修、船内にある機器類の点検、修理などが実施されます。
この際、船に据え付けられた機器の修理が必要となった時、先にお伝えした「ハ」と「二」の規定を当てはめれば、輸入手続き(すなわち、関税や輸入消費税も不要)をすることなく、修理を行う日本国内の工場に持ち込むことができます。
また、修理が終われば、そのまま船に戻せます。
この一連の手続きは、「仮陸揚げ」であれば税関への「届け出」でよく、手続きは迅速に行われます。
ニ 船舶等のぎ装品又は属具のうち取締上支障がないと認められるものを修理等
ただし、「ハ」にあるとおり「同一性の認定ができる範囲の加工」という制限があることに注意してください。
「同一性の認定ができる範囲の加工」を超える改造、アップグレード、改変などは想定されていません。
あくまで修理、修繕を迅速に終えるための措置、と理解しておいてください。
ちなみに、「届け出」は船長、機長、あるいはその代理人が税関に対して行うことになっています。
このとき、「難破などやむを得ない時は警察官への届け出でもよい」というのは、通関士試験の練習問題でよく出題される論点です(正解は○)。
「仮陸揚げ」については、これでわかりました。
では、「積み戻し」とはどこがどう違うのでしょうか?
積み戻し(つみもどし)とは|仮陸揚げと似ているようで全く違う「緊急性のない」特例措置
「仮陸揚げ」と言葉の響きが似ているのでつい混同してしまう「積み戻し」という貿易用語もあります。
これも、通関士試験で出されるような、関税法に規定された少し専門的なしくみとなります。
扱う貨物によっては、貿易実務に日々、従事していても苦情による返金など以外では、お目にかからないかも知れません。
この「積み戻し」は、「外国貨物を外国貨物のままで日本に一時的に保管(保税、ほぜいと呼ぶ)し、その後、外国に向けて送り出すこと」を意味します。
以前、ぼくが聞いた積み戻しの活用例を紹介しておきます。
* * *
今回のエピソードは、とある日本製の工作機械Aに関するお話です。
この工作機械Aは、専用のリモコン(遠隔操縦)装置Bと一緒にシンガポールやタイなどに輸出されます。
リモコン装置Bは韓国製なので、従来は日本に一度輸入して、機械Aと同じタイミングで工場から出荷、輸出しています。(売買契約、信用状ともAとBセットでの船積みを買主は要求しています)
しかし、ある輸出担当者が「ABセットであることだけが売買契約、信用状の要求なのであれば、Bは積み戻しでいいんじゃない? 」と気づき、それ以来、この種の商流(しょうりゅう、商品の慣習的な流れ)では、リモコン装置Bは積み戻しにしたそうです。
* * *
いかがでしょうか。
まるで「〇〇の怖い話」みたいな調子でお伝えしてきましたが、真面目な話です
確かに、積み戻しでも B/L(船荷証券)に書かれる内容は同じなので、買主=輸入者側も特に不都合はないでしょう。
輸入者は、「積み戻し」かどうか、B/L からは知りようがないからです。
「積み戻し」は輸入をしないので、一旦、輸入消費税を払ったり、あるいは再輸出免税を受けたりする手間が省けるメリットがあります。
ちなみに、「原則として積み戻しは輸出と同様に扱われる」ことが関税法でも定められています。(これも通関士試験でよく出される論点です)
税関への申告も、紙を用いるのであれば、「輸出申告」ではなく、同じ用紙を用いて「積み戻し申告」と書き直します。
現在では、税関専用のオンライン NACCS で申請されることが多いと聞きますけどね
最後に、「積み戻し」が「保税」であることから、少しだけ「保税」について補足説明します。
保税(ほぜい)という用語の意味について、あらためて説明します
外国貨物を外国貨物のまま扱うことを「保税(ほぜい)」と呼びます。
関税(税金)がかからない状態を保つ、という意味から来ています。
たとえば、CY=コンテナヤードは「指定保税地域」と呼ばれます。
ここには、外国貨物を外国貨物のまま、最長1か月置く(蔵置、ぞうちと呼ぶ)ことができます。
実際は、コンテナのレンタル期間(フリータイム)も考慮しなければなりませんよ
CYから別の港などまで外国貨物を運ぶケースは「保税運送」と呼ばれます。
(通関士試験の3科目目「貿易実務」では、いろいろな保税が登場するので、受験する方は徐々に慣れましょう)
ちなみに、保税は英語で Bonded (ボンディッド)と呼ばれます。
たとえば、外国貨物のまま、加工ができる「保税工場」は「 Bonded factory 」となります。
まとめ:仮陸揚げは、顧客満足に貢献する可能性があります
仮陸揚げの説明から、積み戻し、保税、と少し話の範囲を広げてみました。
今回の記事をおさらいしておきます。
「仮陸揚げ」を使うと、船のドック期間を短縮できる可能性があるので、結果的に顧客満足につながります。
まだこの制度を使ったことがなければ、乙仲業者(フォワーダー)、税関と「時間があるうちに」相談し、いざという時のために準備されておくことをおすすめします。
仕組みからして、「仮陸揚げ」したいタイミングは突然やってきますからね