こんにちは。
とあるメーカーで貿易実務に関わって20年超の神高(かんだか)です。
比較的、仕事では大きめのアイテム(貨物)を扱っているので、船便が主体の仕事なんですけど、ごくたまに航空便( air-freight )も使います。
さらには、海外の工場から、別の国に製品を輸出する、いわゆる三国間貿易を行うこともあります。
ただ、三国間貿易の中でも、空輸を用いるケースは注意が必要なんですよね。
ぼくのような船便の三国間貿易に慣れた人は、むしろ「たまの空輸」のほうが危険かも知れません。
今回は、自分の経験から「忘れたくない」注意点を一つ、お伝えします。
【貿易】航空便を用いた三国間貿易 船便では意識しない注意点とは?
三国間貿易の解説記事で、売主から販売店に売却する価格を買主(エンドユーザー)に知られてはいけません、と説明しました。
ただ、航空貨物にはそれを誘発してしまう落とし穴があります。
それは、「特別に運送業者に指示をしなければ、貨物と船積書類一式(Air Waybill、インボイスなど)が貨物と一緒に運ばれる」という点です。
これは、非常に重要なポイントなんですよ。
というのも、特に指示しなければ、本来は販売店向けに用意した、販売店との仕切り価格を記載したインボイスが荷受人(コンサイニー)の手に渡ってしまうことを意味するからです。
荷受人 ( Consignee )欄に名前がある人、団体に貨物を受け取る権利があります。
したがい、三国間貿易の際には、乙仲業者、航空会社に「Air Waybill 以外の船積み書類は輸出通関に使った後、いったん我々に返してください。貨物に添付してはいけません」と明確に指示することが大切となります。
船便で用いられる B/L (Bill of Lading、船荷証券)なら、オリジナル(原本)を別便で送る、というひと手間が入ります。
信用状(L/C)を用いた取引なら、銀行が書類の引き渡しを仲介します。
しかし、Air Waybill (エアウェイビル)は、書類が貨物に付いていく。
急いで運びたい貨物、しかも原本は貨物と一緒に運ばれるのだから、当然といえば当然です。
船積書類が遅れて、航空貨物が倉庫や上屋に数日留め置かれる、なんてことになったら、何のために高い航空運賃を払ったか、わかりませんからね。
航空便は早いが一番|実はたくさんある空輸が活きる商品やサービス
コストよりも鮮度やその他の商売上の理由から、日常的に航空貨物を使って輸送する業界もあります。
ぼく自身は扱ったことがないものの、高級な果物、ワイン、その他高付加価値の食材を空輸するケースなどがそうですね。
ジェトロの動画やウェブサイトを眺めていると、そんな事例がいくつも紹介されています。
今の時代、初物のボージョレ・ヌーヴォーは、船便じゃなくて飛行機で届くと相場は決まっています。
ただ、ぼくのようなメーカー、あるいは家電、素材などを扱う商社などで働く方は、そのコストの高さ故に、あまり航空貨物を扱う機会は多くないでしょう。
しかし、ですよ。
メーカーや商社に勤務していると、航空貨物を使わなければならない場面は突然、やってきます。
そして、おそらくそれは、ハッピーな状況ではありません。
空輸の原則を理解し、仮定した条件で見積もりを取っておくなどして、いざという時に備えておくと安心でしょう。
船便と航空便ではインボイスやパッキングリストの重量、サイズ表記が違います
ここでワンポイント。
一般的に、船便と航空便ではインボイスやパッキングリストの重量、サイズ表記が違います。
貿易実務の知識、というか、商慣習とでも申しましょうか。
航空輸送と海上輸送では、一般的に、インボイスやパッキングリストに記載する寸法、重量の単位が異なり、寸法に関しては、海上輸送はm(メートル)とt(トン)を用います。
また、重量は航空貨物の場合はkg(キログラム)とcm(センチメートル)を使うのが一般的です。
もちろん、航空貨物であっても、mやtで荷姿を記載したパッキングリストも使えますけど、小数点以下の数字が細かくなりすぎるので、わかりにくくなります。
運送業者の担当者を混乱を避けるため、空輸ならkgとcm、慣例に従った単位で記載する方が無難でしょう。
航空便では AWB が船荷証券( Bill of Lading = B/L )の代わりとして使われます。
航空便では AWB が船荷証券( Bill of Lading = B/L )の代わりとして使われます。
代わりに、Air Waybill = エアーウェイビル(ウェイビルとも呼ばれます)が航空会社(あるいはフォワーダー=混載業者)から発行されます。
形式はほぼ船荷証券と同一で、Shipper、Consignee、Notify Party などを荷主の希望通りに記載してもらえます。
ただ、船荷証券(B/L)と異なり、ウェイビルには権利証券の機能が初めから無いため、裏書譲渡したり、銀行に担保として差し入れることはできません。
もちろん、契約書内で取り決めをして、ウェイビルを売買したりするのは当事者の自由なはずですが、小職は事例を存じ上げません(すみません)。
先ほど申し上げたように、エアーを使う荷主は1分1秒でも早く荷受人に貨物を引き取ってもらうために高い費用を払ってまで、航空輸送を使います。
したがい、譲渡や裏書など悠長なことをする時間は多くの場合、ないでしょう
そのような事情から、航空貨物は荷受人は B/L とも違う運用がなされているとも言えます。
また、エアウェイビルはそのような性質の書類なので、原則として、信用状( = L/C )取引には使いません。
銀行に書類を送っている間に、貨物が目的地に到着してしまいますからね。
もちろん、原則があれば例外もあるのが世の中の常で、航空便を用いた信用状取引も実際は行われていて、ぼく自身もごくわずかですけど、経験したことがあります。
船便との最大の違い~航空便はやっぱり高い|コストがかかる
航空便を選択する時、最も躊躇する理由はやはり、そのコストの高さでしょう。
例えば、日曜ビッグバラエティでは、「アドニス号はコンテナ1本を約30万円で運ぶ」と紹介されていたと記憶しています。
確かに、日本から欧州までコンテナを運ぶと、荷役諸々でその程度はかかります。(注:これは平時の話で、2021年、コロナの特需で世界中の海上運賃は高騰しています)
しかし、これは別の記事でも触れているように20フィートコンテナ(約2mx2mx6m)、重量にして最大30トン(コンテナのサイズや仕様、陸送の制限などで異なります)の運賃がその程度です。
京間7畳のワンルームマンションに最大約30トンの荷物を詰め込んで、それを丸ごとヨーロッパまで運ぶ運賃、と考えれば、逆に「その程度で運べるのか!?、純粋な海上運賃だけだと意外と安いな」という感覚を一般の方は持たれるのではないでしょうか。
一方、航空運賃は桁が違います。
海上輸送と異なり、同じA地点からB地点に運ぶにしても、便数とキャパシティ(運べる重量や容積)がそもそも船便よりも小さいので、多分に「時価」の要素が強くなります。
また、2mx2mx6m、30トンもある貨物は航空機の貨物室に入らないため、そのような量をまとめて運んではくれません。
さすがに大手企業だけあり、綺麗にまとめていただいています。
感覚からすると、1m x 1m x 1 m、250 kg の貨物を日本(大阪)から英国(ヒースロー)まで空輸するのと、概ね 20 フィートコンテナ1本( FCL ) を海上輸送するのとそれほど変わらない金額かな、と。
ケースバイケースではありますが、それくらいのコスト差はあります。
あくまでイメージですが、コロナ前の平時は、パレット一つ運ぶのに、LCC ではない航空会社で大人が一人~三人旅行(往復)する程度の金額はかかる、という感覚を持っていました。
もし、最初の運賃の見積がそれより高いようであれば、時間的な制約がある中での荷役手配になるとしても、相見積(あいみつもり、2社以上の金額を比較すること)をした方が良いでしょう。
直送とトランシップ(積み替え)の両ケースで比較検討していけば、ほとんど到着日が変わらない、安価なサービスを見つけられる可能性もあります。
航空便が必要な時、大抵、残された時間は少ない|まとめ
ここまでの内容をまとめます。
メーカーや商社で貿易実務に関わっていると、船便だけでなく、航空便による輸送が必要となる場面があります。
しかし、正直なところ、ぼくのような海上輸送を主な仕事としている担当者にとって、空輸は海上輸送ほどには詳しくなる機会がありません。
航空輸送 (air-freight=エアーフレートとも呼びます)を検討するケースで、最もありそうなのは、納期順守のトラブル発生時です。
たしかに、ハッピーじゃないでしょう?(笑)
早く客先に届けないと契約不履行(契約書内の約束を破ること)になってしまう、といったケースはやむを得ず、航空便を使うこともあるでしょう。
あとは、非常に少量の貨物、書類やカタログなども航空便かな。
展示会のサンプルとか、そういった小さくて軽量のアイテムですか。
逆に、ハンドキャリーできるほど「こまごま」したものは空輸でしょう。
船便にしたところで運賃にほとんど差がないだけでなく、貨物が小さすぎ、海上輸送ではむしろ紛失のリスクもあります。
海、空、貿易や通関などの原則は同じですが、習慣と仕組み、特に時間の感覚(輸送期間だけでなく、通関手続きから積むまでさえ早い)が違うので、意識を変えた方が良さそうです。