こんにちは。
とあるメーカーで貿易実務に関わって20年超の神高(かんだか)です。
製造業や商社で貿易実務に就くと、いわゆる「三国間貿易(さんごくかんぼうえき)」に関わることがあります。
言葉の響きからして、3つの国が関わる貿易の仕組みなのだろう、とまでは想像できますよね。
三国間貿易は、じつは商社が間に入る国内取引ともよく似た流れなんです。
シンプルな例を「販売店( distributor )」「代理店( agency )」と比較しながら、一緒にみていきましょう。
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この記事の前に、三社の関係を表すパワーポイントも作ってみました
これで少しはイメージしてもらいやすくなったでしょうか。
記事の最後に jpeg の全ページ画像データも載せておきます
ダウンロードしたい人はこちらからどうぞ:三国間貿易のしくみとは? ~貿易実務にかかわる人へ~
以下の説明では、パワーポイント内をこのように読み替えてください。
- 買主:タイから、さらにインドにも進出した自動車メーカー
- 売主:タイに工場を持つスピーカーの供給者(本社:日本)
三国間貿易のしくみ|三者の関係を具体的事例から図解で解説
イメージしやすい、シンプルで具体的な例を考えてみましょう。
たとえば自動車業界には、完成品を作る会社(便宜上、「メーカー=自動車メーカー」としましょう)とそこに部品を供給する企業(便宜上、「協力会社=スピーカーのメーカー」としましょう)があります。
自動車メーカーが海外生産を計画する時、品質管理、納期管理などの観点から協力会社に「一緒に海外に出ないか」と打診することが多々あると聞きます。
実際、そのような事情でタイやインドネシアなどに多数の企業がグループを作って進出しています。
貿易というからには、モノが国境を越えます
貨物を「買主(かいぬし)」と「売主(うりぬし)」でやりとりする、という意味では貿易に似ています。
でも同じ国の中であれば、貿易とは呼びません。
たとえばタイ国内で完結する取引は、日本の国内取引と変わらないからです。
しかし、更に隣の国、さらに次、と海外進出を進める時、資金力が限られる「協力会社」は、全ての国に工場を持つことができないケースも出てくるでしょう。
その場合、外国A(たとえばタイ)から外国B(たとえばインド)に部品を供給することになります。
これは、シンプルな三国間貿易の事例となります。
イメージしやすいよう、たとえば「協力会社」は、タイに工場を持つスピーカーを作る会社だとしましょう。
「メーカー」は大手の自動車メーカー。
タイに組み立て工場を持ち、インドにも新たに進出するとします。
そのとき、一緒に「協力会社」もインドに進出したいことでしょう。
しかし、規模や資金力が違うので、「メーカー」と相談し、当面の間はタイから部品供給させてもらうことを了解してもらいました。
ありそうなストーリーです。
この場合、スピーカーをタイからインドに販売(輸出)しなければなりません。
仮に日本の本社が関わらないなら、普通の貿易(二国間貿易)となります。
「タイ」から「インド」に輸出する取引ですからね。
しかし、この会社のスピーカーは、設計や特許、営業秘密(ノウハウ)、更には信用を培ってきたブランド名などが詰まった製品ですから、本社も正当な分け前をもらわねばなりません。
そこで、三者それぞれが契約を交わして売買を行うことになります。
それぞれの売買金額を仮に置いてみると、理解が深まります
「協力会社」から「メーカー」への販売金額(契約金額)を100万円と仮定します。
「協力会社」の本社はタイの工場から80万円で仕入れるとします。
その製品を「協力会社」の本社は「メーカー」のインド工場に100万円で販売します。
ここまでで生じた差額の20万円が「協力会社」本社の利益(分け前)となります。
この取引形態の場合、「協力会社」本社とそのタイの工場は、取引価格の内訳を「メーカー」に絶対に知られてはいけません。
仮に高くとも、あるいは安くとも、人間関係同様、知らなくて良いことを知ってしまうと、トラブルの元になりますからね。
なお、今回はとてもシンプルに考えているため、FOB/CIF や税金や関税などはとりあえず、無視しておいてください。
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扱う数字が増えるので面倒になりはしますが、基本は同じです。
販売店( distributor )方式と代理店( agency )方式
先ほどの事例が販売店方式( distributor )ですから、同様に代理店( agency )方式も考えられます。
全く同じ金額が動くとして、先ほどのケースで考えてみましょう。
まず、タイのスピーカー工場はインドの自動車工場と直接、100万円の売買契約を交わします。
その後、「協力会社」のタイ工場は「メーカー」のインド工場にスピーカーを100万円で販売します。
販売の実績が立った後、セールスコミッション(手数料、口銭)として、20万円を「協力会社」のタイ工場から「協力会社」本社に支払います。
これで本社に20万円が残り、「メーカー」は100万円で買う、という関係が成立しました。
この方式は、Amazon などのリテール(小売り)では「ドロップシッピング」とも呼ばれます。
本社は在庫を持たない方式なので、資金繰りは楽です。
しかし、現地の工場と販売店で売買契約を結ぶことになるので、「協力会社」の営業部門がどう契約に関わるのか問題となりそうです。
というのも、勝手に金額が決まると、日本と海外とで二重価格になる(それ自体は構いませんが、コントロールしてないとなると問題、という意味で)など、弊害が生じるからです。
また、20万円を本社が受け取る妥当性を説明できる取り決めを別にしておかねばなりません。
さもなくば、タイ、日本、両方の税務当局(国税局や税務署)から利益供与(りえききょうよ、利益を意図的に減らし、その分を別のところに移転すること)ではないのか?、と質問をされた時に答えられなくなってしまいます。
この分野は掘り下げていくと相当専門的で、大規模な取引になると、「税源浸食と利益移転(BEPS: Base Erosion and Profit Shifting)」なんて呼ばれて、経済ニュースにもなったりします。
販売店と代理店の違いを理解して関係を整理
ここまでの内容をまとめておきます。
販売店( distributor )との類似で考えると、どこからどこに誤って船積み書類を送ってはいけないか、容易にお分かりいただけるでしょう。
今回の事例では、「本社」が「ディストリビューター(仕切り売り)」としての役目を果たしています。
三国間貿易を行うなら、船積み書類、特に金額が記載されるインボイス( INVOICE )は客先に発送するものと本社に発送するものを明確に分けておくのが無難です。
たとえば、
- レターヘッドのロゴなど、完全に外観を変えてしまう
- 書類の右上、左上に [ For Head Office ] [ For Customer ] などと記載する
をしておくと、取り違え防止に有効でしょう。
- L/C(信用状)決済の時にはどうするのか(そもそも、成立するのか)
- 航空便のケースはどうするか
三国間貿易は金額がバレてはいけない、という制限のせいで、時にパズルのように難しくなります。
あちらを立てればこちらが立たず。
そういう意味では、貿易実務の担当者だけで解決できないケースも出てくるでしょう。
売買契約の段階で、営業部門と貿易実務を行う部門で船積み書類や代金回収のシミュレーションをしておくのが理想です
しかし、営業の立場からすると、価格交渉やその他の条件の折り合いをつけていく中で、多少の矛盾が残ってしまうことも多々あります。
映画や教科書のように、実際のビジネスは進まないもの。
船積うんぬんよりも、値段や納期をどのように合意するのか、にエネルギーを注がねばならない商談も多い。
でもそれは、逆からみても同じなんですよね。
海外営業部門、あるいは国内営業の方にも貿易実務の基礎知識は役に立つ、とこのブログで申しあげている理由でもあります。

 
  
  
  
  













