こんにちは。
とあるメーカーで20年以上、貿易実務を担当している神高(かんだか)です。
ONE(ワン、オーエヌイー) という新しい日本の船会社(海運会社)をご存じでしょうか。
「Ocean Network Express(オーシャンネットワークエクスプレス)」は、NYK、MOL、K-LINE のコンテナ部門が合併して生まれた新しい船会社(コンテナ船社)です。
ピンク地に ONE と描かれたコンテナが運ばれているのを、見かけたことはありませんか?
2019年に入った頃から、ONE のピンクのコンテナを市街地でも頻繁に見かけるようになりましたね。
今回は、その新しい時代を担う船会社の成り立ちとコンテナ輸送の背景についてご紹介します。
加えて、先日( 2018年10月7日 )にテレビ東京系列で「日曜ビッグバラエティ 巨大コンテナ船に乗せてもらいました!」という非常に興味深いテレビ番組が放送されてたことにも触れます。
そこで紹介されたアドニス号についても、あわせてお伝えします。
ちなみに、ONE の Twitter は積極的に情報発信をしています。
業界の裏話的なツイートもあるので、ぜひ、覗いてみてください。
大事なお知らせなのでもう一度言いますね💡
前回大好評だった「超巨大コンテナ船に乗せてもらいました!」の第二弾が放送されます。そして第一弾の再放送も!
『日曜ビックバラエティ』忘れずに観てください〜📺
【テレビ東京系列】
6/20(土)11:30-13:30 ※第一弾再放送
6/21(日)19:54-21:54 pic.twitter.com/QroSANGny0— オーシャン ネットワーク エクスプレス ジャパン 株式会社 (@ONE_LINE_JAPAN) June 18, 2020
コンテナ船の日本連合ONEとNYK、MOL、K-LINEの関係とは?
コンテナは海上輸送における革新的なテクノロジーなので、競争はいまも世界規模で行われています。
いわゆるメガコンペティション(世界各国の企業の国境や業界を越えた競争)の中にあり、競争相手はアジア地区に限らず、世界中にいます。
ただ、残念なことに世界のコンテナ取扱量 TOP3 の船会社は、日本はおろか、アジアの船社ですらありません。
ONEは日系大手3社のコンテナ部門が一緒になって生まれた船会社
コンテナを扱う海運会社(船社、せんしゃとも呼びます)の上位3社は以下となっています。
- MAERSK(マースク) 本社はデンマーク
- MSC(エムエスシー) 本社はスイス
- CMA CGM(シーエムエーシージーエム) 本社はフランス
ちなみに、子供用のブロックを作るLEGO 社もデンマークなので、こんなコラボ商品があります。
MAERSK が所有する20,000 TEU級のコンテナ船 Triple-E の「レゴ」版。
Triple-E は新旧併せて31隻が世界中で運行中。
建造は、韓国の大宇造船海洋です。( Wikipedia (英語版)に拠る)
4位以下もCOSCO(コスコ – 中国)、HAPAG-LLOYD(ハパクロイド – ドイツ)と日本以外の船社が続きます。(英語版の関連記事を紹介しておきます)
業界の再編、統合が進む市場は、「winner-take-all(勝者総取り)」とも言われます。
上位の船会社は、いずれも合併や統合をしながら強大化してきた歴史があります。
ここ数年でも、MAERSK(マースク) が HAMBURG SUD(ハンブルクスド)を、MSC(エムエスシー)が CSAV や UASC を、CMACGM が NOL( APL )を買収しています。
買収された側の船社はいずれも決して無名、小規模の船社ではありませんでした。
たとえば、CSAV はチリを含む南米の最大手。UASC もクウェートを含む中東の最大手。
しかし、生き残りのために、合併の道を選ぶことになりました。
その潮流にしたがい、日本の大手3社(日本郵船 – NYK、商船三井 – MOL、川崎汽船 – K-LINE )も定期コンテナ船部門を統括するONEという新会社の設立を発表したのが、一連の動きです。
なお、ONE が運航している二つの 20,000 TEU クラスの船、「MOL TRIUMPH(モル トライアンフ号) 」と 「MOL TRUTH(モル トゥルース号) について、別にまとめています。
ONE の設立と合併後の規模:それでも世界6位(当時)
ONE の設立は2017年7月、2018年4月よりサービスを開始しました。
ぼくの地元関西地区でも、2018年の夏を過ぎた頃から、トレーラーに載せられた「ONE」と描かれたピンクのコンテナが市街地でときどき見られるようになりました。
特筆すべきは、ONEの本社がシンガポールであることです。
つまり、日本は日本法人、という位置づけです。
合併を発表した時点で単純にコンテナ取扱量を合算すると、ONEは世界6位のコンテナ会社になる、と発表されています。
この業界に関わっている以上、「あの大手3社が合併してなお世界シェアが6位なのか!? 」、という驚きとともに、何とか日本の船社に頑張って欲しい、という思いがあります。
貿易実務では、商品、製品をCIF( CIP、CPTなども同様)で輸出して販売する場合、売主が運賃を負担するため、別に契約などで定められた場合を除き、輸送する船会社は売主側(輸出者)が選ぶことになります。
ONE の日本発サービスは充実していますから、あなたも特に意識せずにお願いしているかも知れません。
追記:2018年11月15日付プレスリリース
世界規模の業務提携のニュースが入ってきたので、リンクを紹介しておきます。
Ocean Network Expressは、コンテナ船業界でのデジタル化、標準化、そして相互運用性強化の分野でMaersk, CMA CGM, Hapag-Lloyd, MSCと5社間で提携していくことを発表します。
https://www.one-line.com/sites/g/files/lnzjqr776/files/2018-11/EN_PR_5containerlines_association.pdf
松井証券社長の著書「おやんなさいよでもつまらないよ」【2019年7月28日追記】
日本郵船出身の松井道夫 松井証券社長の著書「おやんなさいよでもつまんないよ」について、本を買ってから20年後に書評を書くことにしました。
当時、松井道夫社長が将来をどう描いていたのか、興味のある方はどうぞ。
【日本郵船出身の松井証券社長が書かれたビジネス書:「おやんなさいよでもつまんないよ」】
松井社長は、いまだに年始の挨拶で「郵船時代」の逸話を引用されています。海上輸送の業界の変化とメガコンペティションのご経験が、よほど印象深く残っておられるものと想像されます。
実際、海運業界は世界規模の「国」も「人種」も「通貨」も超えた競争ですからね……
日曜ビッグバラエティの「アドニス号」について
テレビ東京系列で2018年10月7日(日)に放送された日曜ビッグバラエティ「巨大コンテナ船に乗せてもらいました! 」を観ました。
日本を出港したONEが運行する「アドニス号」に乗って、欧州航路への40日間に密着取材する、というテレビ番組。
ぼくも貿易実務に関わっている身、非常に興味ある内容だったので、生で視聴しました。
残念ながら録画できなかったものの、再放送があれば再び視聴したいと思っています。
この「アドニス号」、放送中に何度か紹介、映像でも船体に書かれた船名が映っていました。
正式には、「 NYK ADONIS (エヌワイケーアドニス)」。
2010年3月30日に就航(仕事に就くこと、しゅうこうと読みます)、建造はIHI(石川島播磨重工業)呉、建造番号は3278番、IMO(世界海事機関)番号は9468293となっています。
何故、貿易実務に従事するだけのぼくが、そこまで知っているのか。
実は、登録情報が公表されている。船体の検査などを行っている日本船級協会( ClassNK )のサイトに、ClassNKに属する船の情報が公開されています。
船の大きさや扱えるコンテナの数などもそちらで確認できます。
こちらで”Ship’s Name” に “NYK ADONIS” とインプットすると登録情報が表示され、さらに船名をクリックすると、船体サイズ、DWTなどの詳細が表示されます。
全長 332メートル、幅45メートル。20フィートのコンテナを約10,000個積載可能。まさに移動式の巨大倉庫、といった規模のコンテナ船。
「日本最大級のコンテナ船」、と番組内でも紹介されていました。
ちなみに、この船がどこにいるのか、こういったことも今はインターネットで検索できます。
興味があれば、Marine Traffic というサイトで知っている船名(せんめい)を検索してみましょう。
世界最大のコンテナ船は? まだまだ建造競争の真っ最中
「最大級」という表現は、広告の世界でよく使われます。
そして、大抵の場合、それは「最大」ではありません。
「最大」と広告にうたうからには、具体的な根拠が必要だからです。
不正競争防止法で「品質や内容を誤認させるような表示」が禁じられているため、性能や能力を表す時は、昔に比べれば、より正確な表現が求められるようになっています。
たとえば、「体にやさしい」などについては……。
いや、広告の話はこれくらいにしておきましょう。
現在、真に世界最大のコンテナ船はどの船で、どの程度のサイズなのか。
まだ大型化の競争が行われており、記録を作っても破られる状況が繰り返されています。
その中で、少なくとも、MOL(商船三井)の「MOL TRIUMPH」というコンテナ船が2017年3月、世界最大の船として就航したことがわかっています。
この情報は当時、MOLの公式ホームページでも紹介されました。
そのサイズは実に、20,170 TEU(20フィートを約2万個積載可能)、全長400メートル、幅58.8メートルにも及ぶ。韓国のサムソン重工業で建造されました。(そう、あの Galaxy スマホのサムスン=三星です)
「 MOL TRIUMPTH(MOL トライアンフ) 」の後、同じサイズの船が5隻建造(そのうち2隻は、いまや日本最大のシェアを誇る今治造船で建造)され、いずれも就航しています。
それらと平行して、少なくとも MSC と CMA CGM、韓国の現代商船が20,000TEUを超える新しい船を建造する、と発表しています。
各々の詳しい就航時期までは把握できないものの、今までであれば、おおむね新造船建造がプレス発表されてから2年程度でサービス(貨物を運ぶ仕事をすること)に船は就きます。
となると、少なくともここ数年は各社、船の大型化競争が続くことは間違いありません。
船の大型化は運賃(コンテナあたりの単価)を下げる効果が見込めます。
しかし、喫水(きっすい。海底までの距離、水深)や港のサイズ自体の制限などで、寄港(きこう)できる都市、港は限られているのも事実。
そういう様々な制限の中で何がベストの選択なのか。各船社は独自の戦略を出して生き残りをかけて戦っているわけです。
ぼくは日本人なので、やはり、日本の船社に頑張って欲しい、主導的な立場であって欲しい、と願っています。
まとめ:拠点とアライアンスを知るとルート選定が容易に
今回、一緒にみてきた内容をおさらいしておきます。
日本の大手3社(日本郵船 – NYK、商船三井 – MOL、川崎汽船 – K-LINE )が定期コンテナ船部門を統括するONEという新会社の設立を発表したことについて、一緒に考えてきました。
旅客機(飛行機)同様、全ての船社が全世界の輸送ルートを維持するわけにはいきません。
運航する隻数に限りがある以上、各社、得意なルート、不得意なルートがあるからです。
そういう意味では、日本発の貨物は、日系の船会社を軸に運賃を比較するのが王道です。
もし、輸出で日系の船社を選ぶことが難しければ、仕向地(揚地)、あるいは仕向地と日本の中間に位置する都市を拠点とする船会社を調査すれば、選択肢を増やせます。
シンガポールに出張する時に、JAL、ANA と併せてシンガポールエアライン、香港のキャセイ航空などを比較検討するのと同じような理屈です。
このルートであれば、ルフトハンザ航空やユナイテッド航空はまったく候補になりません。
さらに、各船会社のアライアンス(提携関係、shipping conference = 海運同盟jとも言います)を知っておけば、より選択肢は広がります。
たとえば、ONE の所属する “THE ALLIANCE” は、2018年からハパックロイド(ドイツ)、陽明海運(台湾)と組んでいます。
INCOTERMS や船積書類の作成方法などを学ぶのと平行して、このような海運業界の状況を知っておくと、船を予約する時に役に立ちます。
航路や船団(せんだん、所有する船の構成、fleet)によって、輸送期間や寄港する都市も変わるので、輸送計画のイメージをしやすくなります。
飛行機の場合はどうかについては、別記事で触れています。
(お詫び:2019年1月4日追記)
2019年1月2日にテレビ東京で日曜ビッグバラエティ「巨大コンテナ船に乗せてもらいました! 」の再放送があってから、「アドニス号」x「再放送」等の検索ワードでこちらの記事に来られる方が急増しています。
しかし、申し訳ないことに、再放送やオンデマンドの情報を持ち合わせていません。
もし、テレビ東京、TBS他が出資する Paravi や自社の テレ東オンデマンド に情報があればご紹介したいのですが、検索してもヒットせず……。
アーカイブへの追加など、動きがあればまた反映します。
Abstract in English: ONE, from NYK, MOL and K-LINE
Hello. I am Tohma Kandaka.
Kan(神) and Daka(高)is one of Japanese family names and a combination of Kan – Shrine & Daka – Height.
This article introduces ONE ( Ocean Network Express ), a brandnew major Japanese container line that started service in April 2018.
ONE’s headquarters, funded by NYK, MOL and K-LINE, is strategically located in Singapore. As a Japanese business person involved in overseas trading, I will continue to support ONE personally in this site.
ONE’s Top Page, cargo tracking, Scheduling etc., is here.
MOL(商船三井)の自動車船 M/V “BELUGA ACE”(ベルーガエース)も登場【2019年6月9日追記】
急にアクセスが増えたので調べてみると、テレビ東京系列で続編が放送されていました。
今回、密着取材番組されるのは、MOL(商船三井)の自動車船 M/V “BELUGA ACE”(ベルーガエース)。
プレスリリースから、2018年3月15日竣工、南日本造船で建造された船であることがわかります。
続編が放送されるのは、それだけ前回の放送が好評だったということでしょう。