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【貿易】B/L Crisis 船荷証券の危機とサレンダーB/L (Surrendered B/L) の関係とは?

貿易実務・事務処理

こんにちは。

とあるメーカーで貿易実務に関わって20年超の神高(かんだか)です。

「 B/L Crisis( B/L クライシス) 」という用語の意味を知ったのは、つい最近なんですよ。

乙仲業者との打ち合わせの中で出てきた表現で、日本語では「船荷証券の危機」と呼ぶそうです。

かなり物騒な響きですね(笑)。

この B/L Crysis、「コンテナ船の高速化と近隣諸国の経済発展により、貨物の到着に船積書類が間に合わないこと」を表します。

その対策で使われる Surrendered B/L について、一緒にみていきましょう。

【貿易】B/L Crisis 船荷証券の危機とサレンダーB/L (Surrendered B/L) の関係とは?

素材にしろ機械にしろ、メーカーであれば、輸出先はおそらくアジアの顧客が高い比率を占めていることでしょう。

業種の違い、景気の波などがありつつも、中国を中心としたアジア諸国は今もなお、世界の工場です。

コンテナ船を使うにせよ、在来貨物船を使うにせよ、貨物の受け取りのため、輸入者は B/L の原紙を入手する必要があります。

しかし、昨今のコンテナ船輸送は非常に速い。

中四国、関西地区を出港した船は2、3日で韓国の釜山(プサン)に到着し、7、8日程度で中国の上海にも着いてしまいます。

となると、B/Lの原紙の到着よりも貨物の到着が早いケースが出てきますよね。

貨物を速やかに輸入できなければ、デマレージのリスクも高まります。

そこで、アジア周辺諸国では、Surrendered B/L (サレンダービーエル)という、形式上のB/L、実は B/L とは本質の異なる書類が広く使われています。

「 Surrendered 」とは、船会社が一旦 B/L を発行し、荷主に原本の情報を教え、その後すぐに回収してしまうことを意味しています。(元地<もとち>回収と呼ばれます)

Surrendered B/L は、その B/L 原本の情報に基づいて作成されます。

ただ、この Surrendered B/L は譲渡できる証券としての機能を失っているため、原則的に L/C(信用状)決済で使えません。

一方で、FAXでもPDFでも、とにかくコピーがあれば Surrendered B/L に明示された Consignee(受け荷主、荷受人) は貨物を船会社(すなわち、貨物を積んだ船)から受け取れる、という便利さがあります。

ただ、先ほど説明した通り、「原則として」 L/C などの銀行を介した取引では使えないため、売主(輸出者)には不利な状況が生まれやすいといえるでしょう。

したがい、契約内容や商品にもよりますが、Surrender B/L を用いる場合には一部/全部の代金を前もって受け取る、といった対策が必要となります。

逆に、グループ会社間、長期的な信用が築かれている間での取引であれば、積極的に使っても特に問題はありません。

日本語ではサレンダー|Surrendered の意味とは

貿易実務に関わる中で、Surrendered B/L のことを「サレンダー」と呼ぶことがあります。

厳密にはSurrendered。

日本人同士で「サレンダードですよね」などと言い換えたりするのは、面倒臭いヤツめ、と思われるのでやめましょう(笑)

でも、海外のお客様、取引先とメールなどをやり取りする時は別です。

「Please arrange B/L to be issued as “SURRENDERED” for PO NO. XXX.」等々、極力、正確に電子メールなどで伝えるようにしたい。

ここを曖昧にすると、輸出者にこちらの意図が通じない可能性があります。

B/L(船荷証券)には「貨物の所有者」の情報が書かれています

同じ売買契約でも、朝ごはんのバナナ1本をコンビニで買うのに、契約書を作る人はいません。

しかし、コンテナいっぱい( FCL )のバナナをDOLE社からリーファーコンテナ(冷凍・冷蔵ができるコンテナ)で購入するとなれば、何度か商談が必要だし、その結果を契約書として残す必要があります。

買主は確実に貨物を受け取れるように、あらゆる注意を払わねばなりません。

売主の DOLE(ドール) 社側も代金回収(買主から売主がお金を受け取ること)を確実に行えるように様々な準備をすることになります。

その仕組みの中心に船荷証券( Original B/L )はあります。

B/L を発行するのは、貨物を載せた船の所属する船会社です。

その船会社は、B/Lに書かれた貨物を確かに受け取った、という証明、すなわち受領書として B/L を発行します。

貨物をここからここまで運びますよ、という情報も記載されているので、B/L は INCOTERMS に基づく運送の契約(すなわち、誰が運賃を払うかなど)を説明、証明する書類でもあります。

その時、発行される B/L の宛先は輸出者(通常は売主)って意識していましたか?

受取人宛て、ではないんです。

もし、手元にB/Lの写しがあれば、Shipper(仕出人)の欄を確認してください。

輸出者、売主の企業名、団体名などが B/L の左上に記載されているはずです。

船積直後、貨物の所有権は B/L を持っている輸出者、売主側にある

先ほど説明した通り、B/L は貨物の受領書の意味があるので、この段階で貨物の所有権はまだ、B/L を持っている輸出者、売主側にあります。

そして、この後、何らかの手段で B/L を輸入者(買主)に原紙(オリジナルともよばれる)を送付します。

昔は郵送でしたけど、今は DHL や FEDEX などのクーリエ(国際的な宅配サービス)が便利ですよね。

この一連の手続きにおいて、裏書きすると B/L は受領書から証券に変わります。

なぜなら、B/L を持つものは、貨物を輸入地で船会社から引き取る権利を有し、B/L に裏書(うらがき、証券の裏にサインをし、権利の移転を証明すること)するだけでさらに第三者へ譲渡可能だからです。

手元に B/L の実物があれば、今度はConsignee(荷受人)欄を確認ください。

貨物を受け取る側、輸入者、買主の企業名や団体の情報があるはずです。

(もし TO ORDERナントカ、と書かれていれば、それはL/Cを介した取引です。銀行が一旦権利を持つため、そのような記載になっています。)

日商簿記3級など、会計の資格試験に取り組んだ人ならば、以下のような問題を見たことがあるでしょう。

「大阪商店は荷為替(50万円)を引き受けて船荷証券を受け取った。仕訳せよ」

この仕訳では、資産に「未着品」50万円が計上されます。

船荷証券を受け取ったら、貨物そのもの(未着品という勘定科目でだが)が資産にカウントされるわけです。

簿記を先に学ぶと、特に証券の仕組みを理解していない人にとっては、「何のこっちゃ?」な問題でしょう。

しかし、ここまでの説明で、船荷証券( B/L )が何かを理解してもらえば、紙切れ一つで、なぜ荷物を受け取ったも同然の仕訳(しわけ)をするのか、理解できます。

B/L を持つものは、輸入地で貨物を受け取る権利を有するのです。

B/L 所有者と裏書の関係 ~ 裏書がないケースでも……

あれ?B/Lは裏書しなければ貨物は引き渡されないのでは?と思ったあなた。

するどいですね。

B/Lが証券として扱われる以上、裏書譲渡できる機能が備わっています。

日商簿記の3級の範囲に、「約束手形」というしくみがあります。

一定の様式を満たした有価証券で、期日が到来した時にそこに書かれた金額を払う、という約束を証明する書類です。

この約束は所有者が裏書(本当に裏にサイン)をすることで、新しい持ち主に権利が移ります。

まさにこれと同じ昨日をB/Lは持っている。

裏書をすると、新しい所有者に権利が移転します。

しかし、B/Lは約束手形とは異なるルールがあり、原則としてB/Lを持つものは、裏書がなくとも貨物を受け取ることができる。

参考書などでは、「持参人に貨物を引き渡す」なんて書かれ方をします。

もちろん、B/Lが改ざんされたような形跡がある場合などは、船会社は何らかの判断をするでしょう。

また、船会社が独自に内規(社内規定)を定めて、ややこしい手続きを踏まなければ裏書のないB/Lでは貨物を渡さない、という例もあるようです。

ただ、原則としては、裏書があってもなくても B/L を持つものは貨物を受け取る権利がある、というのは、貿易実務に関わるなら認識しておく方が良いでしょう。

したがい、B/Lの受け渡しには常に慎重になるべきです。

信用状( L/C )を用いておれば当然、代金回収と抱き合わせ、つまりセットです。

第三者と裏書された B/L が必ず介在するので、不用意なことはなされません。

しかし、T/T(電子送金)やD/P、D/A( 銀行を介したB/Lによる代金決済の一種 )などであれば、いわゆる取り込み詐欺に巻き込まれる危険があります。

慣れてくると、どうしても扱いが雑になりがちだが、B/Lは貨物そのものだと思って大切に扱いたいものです。

【貿易】B/L Crisis 船荷証券の危機とサレンダーB/Lの関係とは?|まとめ

ここまでの内容をまとめます。

貿易実務の本などでも、あまり解説の無い分野なのですが、ジェトロが綺麗にまとめてくれていたので、ご参考まで紹介しておきます。

サレンダードB/Lの仕組みと留意点:日本

サレンダー B/L と併せて、原則となる通常の船荷証券についても触れてきました。

大きな金額を扱うといっても、たとえば住宅ローンの借り換えの手続きのほとんどをオンラインや電話で行える現代にあって、紙ベースの船荷証券はずいぶんと古い仕組みのように思えます。

残念ながら、日本は IoT や電子決済の普及が遅い部類に入るでしょう。

「Fin Tech 先進地域」とさえ言われるアフリカ諸国では、いきなりインフラ導入~電子的な船荷証券が使われるケースもあると聞きます。

もちろん、紙を使った貿易実務の仕組み自体は大変長い歴史があり、輸出者、輸入者とも理解しやすい「共通言語」のようなものなので、簡単には消えないでしょう。

「貿易実務」の原理原則を理解しておれば、時代が変わっていっても、この仕事に関わることはできるんじゃないかな。

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