こんにちは。
とあるメーカーで貿易実務に関わって20年超の神高(かんだか)です。
「CIF、CIP 契約の輸出において、揚げ地(仕向地)のターミナルハンドリングチャージは誰が払うべきか?」という議論に巻き込まれました。
さて……。
あらためて考えてみると、意外と即答の難しい、ややこしい問題です。
というのも、CIF、CIP の場合、習慣的に「輸入港、揚げ地の THC は輸入側が払うもの」と思い込んできたからです。
しかし、根拠がはっきりしない。
Terminal Handling Charge(ティーエイチシーと略す人もいます)の負担について、輸出側の立場で検討してみたいと思います。
逆に考えれば、輸入のケースでも参考になるでしょう。
THC(ターミナルハンドリングチャージ)は誰が払うべきか?|Terminal Handling Charges とは

結論じみたことをいえば、
「CIF、CIP 契約の場合、揚げ地(輸入する側)の THC は輸入する者が払うのが普通、一般的。ただし、別に契約で定めた場合はもちろん、業界の商慣習により、異なるかも知れないが……」
となります。
その前に、THC が何かについて、整理しておきます。
Terminal Handling Charges とは|サーチャージの一種
ターミナルハンドリングチャージの定義については、ジェトロの解説を引用させてもらいます。
コンテナターミナル内で発生する費用を指します。具体的には、ガントリー・クレーンを使用してコンテナを本船からコンテナ・ヤード上へ降ろす作業、コンテナ・ヤードに降ろしてからコンテナ・ヤード内の所定の場所に移動する作業、コンテナの維持・管理作業、税関への届け出作業等を取りまとめた料金です。
https://www.jetro.go.jp/world/qa/04A-011025.html
つまり、海上運賃とは別。
海外出張の航空券のサーチャージのような、港で発生するもろもろの追加料金(諸掛り、しょがかり)という位置づけです。
(逆に言えば、通関前後の国内の輸送費などは入っていません)
THC の扱いが問題になるのは、その数字があまり小さくないからです。
THC は運賃と比べても意外と高い|高額になる理由とは
実際に輸出入に関わっている方であれば、この THC が非常に高額であることは気づいているでしょう。
近距離の輸送であれば、海上運賃と同様、あるいはそれ以上の金額になることもあります。
それもそのはずで、コンテナの場合、船に乗せて固定してしまえば、あとは何も手をかける必要が(普通は)ありません。
逆に、船に積むとき、降ろすときは、クレーンを使い、コンテナヤード(CY)に運ぶ手間がかかります。
その費用を「ターミナルハンドリングチャージ」という名目で請求しているわけです。
もちろん、これは貨物の種類によっても変わってきます。
たとえば、冷凍・冷蔵貨物を扱えるリーファーコンテナ(Reefer)や重量物を運ぶオープントップ(Open Top)、ルラっとラック(Flat Rack)コンテナには、通常のコンテナとは別の、同じ20フィート当たりでも高額な THC が設定されます。
だから、特殊な貨物はなおさら、THC の負担について事前に注意しておくべきです。
さて、本題の「到着した港での THC は輸出者、輸入者、どちらの負担か?」について、思うところを述べてみます。
仕向地の THC 負担はどちらが負担するのか|輸出者?輸入者?

最初にも述べましたが、私自身の見解はこちらです。
「CIF、CIP 契約の場合、揚げ地(輸入する側)の THC は輸入する者が払うのが普通、一般的。ただし、別に契約で定めた場合はもちろん、業界の商慣習により、異なるかも知れないが……」
契約は自由ですから、前もって契約書に「輸入港の THC は輸出者の負担」と書いておけば、合意はできています。
また、業界、扱う商品、製品によっては、それが一般的な分野もあるとは思います。
ただ、私が扱う産業用機械や電子部品、雑貨の類であれば、おそらく契約書に書いてあっても、モメます。
というのも、我々が属する業界の商習慣から外れているのと、さらに輸入地のフォワーダーにも特別な(例外的な)扱いを要請しなければならないからです。
たとえば、日本からサンフランシスコに輸出するのであれば、米国の通関業者(フォワーダー)に日本から THC を払う。
時差もあるし、事前の見積を取るだけで大変。
さらに、輸出者としてコンテナをブッキングするときから、「この貨物の輸入港の THC は輸出者が負担です。間違えないように」と注意を促さねばなりません。
加えて、見積書の中身をチェックし、さらに請求書でもきちんと分担されていることを事後に確認することになります。
そんな例外的で特殊な扱いをするなら、必要なコストをもらって、DAP で契約させてもらったほうがマシかも知れません。
もちろん、フォワーダーがその種の複合輸送(3PL)に長けている必要があります。
輸入する立場からみた THC の負担|特別な事情、契約がないなら……
逆に、日本に貨物を輸入する立場の方であれば、特殊な事情、契約に定めがないなら、日本側の THC の負担を輸入側がするのが普通、一般的だと思います。
(注:繰り返しますが、業界によっては商習慣が違うかも知れませんし、契約で定めれば、なんとでもできます)
先ほどの輸出とは逆の立場ですから、もし私が THC を輸出者に負担させたいなら、輸入を担当する日本のフォワーダーに十分な注意をしてもらわねばなりません。
このあたりは、インコタームズを選ぶ話とも類似しています。
たまに、大きなかさばる貨物なのに DDP(税金、関税含めてすべてが輸出者負担)での見積提示を求められることがあります。
その際、正直には言えませんが、「この買主は、あまりクレバーな選択をしてないな」と思うんですよ。
封筒や人が運べる段ボールに入る貨物なら、別に DDP でも何でも気にせず、お互いに必要な運賃を払って運べばよいでしょう。
DHL、FEDEX、UPS などに払う金額も、単発ならたかが知れています。
運賃を比較して、リスクも考えて、なんて、時間と手間が惜しい。
しかし、港ごとにリフトやクレーンを使うような貨物となると、事情は変わります。
3PL(複合輸送) で DDP ができるかどうかが問題になりますし、できたとしても、輸入者は手間がかからない分、まず間違いなく FOB や CIF よりもトータルコストは上がります。
昔、商社に勤めていた古(いにしえ)の大先輩から「買いの FOB、売りの CIF(だったかな?言い回しは不正確かも……)」というセリフを聞いたことがあります。
これは、「輸出も輸入も、運送や保険に関し、十分な知識や経験、コントロールする力があるなら、できるだけ、その範囲を増やすのが得策」ということです。
輸入する立場で、船会社が2社、3社選べるなら、FCA や FOB で割安な船を選ぶのが得、というわけです。
よほど買う側の立場がハラスメント並みに強ければ別ですが、普通はその THC + α が買値に含まれているわけですから。
まとめ|THC(ターミナルハンドリングチャージ)は誰が払うべきか?|Terminal Handling Charges とは

ここまでの内容をまとめておきます。
コンテナ輸送にしても、あるいは一般的な貨物船で輸送する場合も同様のマインドがあります。
それは「現地の手配は、現地に任せたほうがコントロールしやすいし、一般的には全体のコストも下がる」です。
遠く離れた輸入地の THC を輸出者が負担するのは不自然で、割高な料金を請求されやすい、ということでもあります。
遠く離れた国からの見積依頼に、国内の取引先と同じ金額や条件は出せないですからね。
** ** **
さて、この記事を読んでいただいているということは、新しく貿易実務の仕事に就かれた方かも知れません。
その場合、この記事だけは読んで帰ってください。
悪いことはいいませんので。



