こんにちは。
とあるメーカーで貿易実務に関わって20年超の神高(かんだか)です。
思いのほか「デマレージ( demurrage demurrage )」と検索してこちらのサイトに来ていただく方がたくさんいらっしゃいます。
しかし、正直、あまり喜べません。
というのも、物量にもよりますが、頻繁にデマレージに悩まされるなら、輸送期間やB/L(= Bill of Lading)の受け渡し方法など、どこかに無理があるからです。
ぼくも、デマレージ費用がかかったこともありますし、高額の費用に悩み、輸出者側と協議したこともあります。
ただし、完ぺきではないにしても防止策のイメージも持っています。
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今回は、実際にデマレージが発生した場合、誰がその費用を負担するべきなのか、と「考えられる予防法」についてご説明します。
デマレージ費用の負担者は誰か?|予防する方法があるのですが……
あらためて調べてみたものの、デマレージを誰が負担するかについて、INCOTERMSなどに定められたルールは見つけられませんでした。
費用負担、危険負担の記載はあるものの、デマレージの負担方法についてまでは言及がないのです。
では、実務上、すでに発生してしまったデマレージは、売主( Shipper )、買主( Consignee )、はたまた船会社( Shipping Company )、どこが負担するべきなのでしょうか?
これは、残念ながら、ひとまず買主(輸入者側)が費用を負担しなければならないでしょう。
というのも、懲罰的な意味合いもあり、デマレージ費用(≒保管料)は1日遅れるごとに累進的に、すなわち、2倍、4倍といったスピードで上がるからです。
輸出者( Shipper )とメールや電話のやりとりをするだけで1日、2日と無駄にしてしまいます。
起きてしまった問題について、あとから輸出者と議論するにしても、輸入者は輸入者で一日も早く貨物を引き取るべきです。
以下は日本最大手のコンテナ会社 ONE ( OCEAN NETWORK EXPRESS )の公式サイトに掲載された例です。
これらの金額が、「1日当たり」となっていることは注目です。
他の船会社も似たり寄ったりな条件なので、ここでご紹介する金額が特別高いわけではないことは認識しておいてください。
特に条件が厳しいのは、「普通とは違うタイプのコンテナ」です。
通常のドライコンテナ(20フィートや40フィートのいわゆるドライバン)も高額ですが、たとえば FLAT RACK (フラットラック、重量物などで用いる下の板だけのコンテナ)などの特殊コンテナ(特殊バン)となれば、10日目から48,000円/日の保管料がかかります。
売主に買主からクレームをして協議している間にも、それだけの金額(費用負担)が日々、発生することになります。
ですから、まず「火を消して」、それから「事後の対応」を協議しましょう。
後から買主が売主に費用負担(損失の補償、埋め合わせ)の協議を申し入れるにしても、総額は少ない方が良いのは、当然のことですよね?
本来は、お互い、考慮する必要のない無駄な費用なのですから。
もちろん、事後の対応のイメージは持っておく方が精神的にも楽です。
具体的には、たとえば売主にクレーム、協議、あるいはあまりに誠意がなければ売買契約書に基づき、仲裁裁判( arbitration、アービトレーション )に持ち込み、費用負担について第三者を交えて協議することもできます。
船積書類の送付につき、売主側で大きな過失があれば、買主側としては大いに主張すべきでしょう。
あらかじめ、売買契約書に売主負担と明記するのは有効か?
では、このような状況を避けるために売買契約書に明記しておくのはどうでしょうか?
確かに、売買契約書の下書きは一般的に買主が作成するので、自分たちが買う側なら案(ドラフト)としては準備可能でしょう。
しかし、一方的な条件を入れると、常識のある売主なら、売買契約書にサインできません。
というのも、一旦輸出してしまえば、貨物をいつ引き取るかは、基本的に買主のコントロール下にあるからです。
倉庫代を省くために遅く引き取る、あるいは日本側の車両の準備が遅れて引き取りが遅れる。そのような場合まで売主が「デマレージ」と称して費用負担するのでは、リスクがあり過ぎて、契約できません。
逆に、日本から輸出する貨物につき、「海外で発生するデマレージは全て売主負担である」といった文言があったら、日本の売主側は契約書にサインできるでしょうか?
いくら「契約自由」「買主の方が立場は強い」と言えども、そこまで売主に負担させるのはアンバランスでしょう。
輸送期間が短すぎるなら、Bene Cert(ベネサート)方式も一案
もし、フリータイムを十分にとっても、いつもデマレージを気にしてヒヤヒヤしている、ということなら、売主、買主が書類をやりとりする「実力」に対して、輸送期間が短すぎる可能性が高いです。
たとえば、上海から西日本(関西地区、中国地方)ならば、出港から1週間程度で到着します。
1、2日の事務手続きの遅れでも影響は大きいのです。
これを B/L Crysis( B/L クライシス)と呼んだりします。
解決法がないわけではありません。
たとえば、もし状況が許すなら、L/C(信用状)による決済にこだわる必要はありません。
双方で合意し、Sea Waybill や Surrendered B/L を用いた T/T(電子送金)決済を用いることもできます。
(注: 信用状を扱う双方の銀行に確認が必要ですが、Original B/L ではなく、Sea Waybill、Surrendered B/Lでも L/C 決済を行えるケースもあります)
あるいは、いわゆる Bene Cert 方式(例えば、3/3ある B/L のうちの1枚とその他船積み書類(原産地証明なども)を先にクーリエで送付してもらう)を輸入者側なら用いることもできます。
幸いにも、JETROのサイトで、日本側が輸出者となるケースについて、丁寧な解説があります。
ただし、この「Q&A コーナー」では、相談者は「輸出者(売主)」なので、「輸出者の悩み相談」であることに注意してください。
また、「 Bene Cert 」という用語も使っていません。
もし、あなたが輸入者なら、この逆です。
つまり、Bene Cert 方式は買主にとって使い勝手のよい、有利な仕組みとなっています。
とはいえ、このあたりは「海外営業」「海外調達」と呼ばれる部門や担当者と十分に話し合わないと、使えません。
会社組織となると、「売買契約書」の中身を決めているのは、営業や調達、資材と呼ばれる部署だからです。
それでは、デマレージ( demurrage )回避のために、実務者の立場で予防法はあるのでしょうか?
デマレージ( demurrage )回避のために実務者にできる予防法とは
きれいごとと言われるかも知れません。
しかし、交通事故と同様、デマレージ発生の責任が「売主:買主 = 10:0」、というのはやはり考えにくい。
予定していないものを勝手に発送してきたのならまだしも、その背景には、通常、売買契約があり、場合によっては L/C もあります。
CARGO READY( カーゴレディ、貨物の準備が整う時期 )が決まれば、積載する船についてもある程度、実務者同士でやりとりをする機会もあります。
いくら保守的な企業であっても、さすがにメールや電話、パソコンは使わせてくれるでしょう?
「手書きの表を FAX で送る」ことがルールとなっていても、同じ内容を電子メールで送付することはできます。
ならば、少しでも「あやしい」と思えば、二重三重に連絡しておけば良いのです。
貿易実務者同士の具体的なコミュニケーションはどうあるべきか?
ここまでの内容を簡単にまとめておきます。
継続的に輸出入を繰り返す相手でデマレージが発生するのであれば、メールだけでなく、納期表を作成してお互いに埋めていく、といった工夫がなされるべきでしょう。
今の時代、メール本文や電話だけのコミュニケーションにこだわる理由もありません。
必要なら、オンラインによる電話会議も役に立ちます。
たとえば、ぼくが学生のころに流行っていた Skype (スカイプ)は、ウインドウズやオフィスで有名な「マイクロソフト」が買収していて、今は「 Teams 」とビジネス向けのアプリ(クラウドサービス)に生まれ変わっています。
ほかにも Google や Apple その他が提供しているサービスもあります。
マイクロソフトに限らず、今は社内外の打ち合わせをメールだけに頼らない仕組みが「安価に」提供されているのです。
「安価」って、どれくらいローコストかと言いますと……。
たとえば、個人事業主や中小企業向けの「Office 365 Business Essentials 」というサービスは、一人月々¥540~です。
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5,400 円の書き間違いじゃないですよ。540円です。
もちろん、事業所、部署全員が契約する必要はなくて、必要な最低の人数でテストできます。
物流部門を代表して一人(一つのアカウント)で運用、なんて使い方でも OK です。
海外の取引先がすでにマイクロソフトの「 Office 365 」を導入しているなら、使える可能性が高い。
上司や関係部署と相談して導入すれば、おおきな業務改善につながるかも知れません。
≫Office 365 Business Essentials ほかを公式サイトで確認する
ちなみに、大企業向けなら「 E1 」という月々870円のプランが近い内容です。
もし、輸出者の貿易実務の若者と同じ会社、同じチームのように頻繁に情報共有できれば、細かい問題はいろいろあるにしても、輸出前にフリータイムの交渉を輸出国側で頼むなどして、デマレージ( demurrage )のリスクを軽減できます。
本日は最後までお読みいただき、ありがとうございました。
デマレージとフリータイムそのものについて解説した記事も書いているので、興味のある方はどうぞ。
Notify Party (ノーティファイパーティー)の使い方についても触れています。