「インコタームズ2020で新設された DPU ( Delivered at Place Unloaded )と インコタームズ2010からあった DAP ( Delivered at Place )の違いは何ですか?」
との質問を「お問い合せ」からいただきました。
個人的にはあまり使わない Trade Terms(貿易の条件)なので、公式なガイドブックを参考に整理してみました。
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もし、ICC(国際商業会議所)の書籍があれば、今回の変更点、要点をまとめた導入部「 Introduction to INCOTERMS(R) 2020 」の No 74、75 を参照ください。
そこには、「インコタームズ 2010 の DAT と DAP の「唯一の違い」は、DAT では貨物が到着して『ターミナル』で荷下ろしされた時点で引き渡されるのに対し、DAP では買主の手に委ねられた時点で引き渡されることでした」と書かれています。
そして、『ターミナル』はインコタームズ2010の時点でも、すでに「コンテナターミナルに限らず、双方で合意したあらゆる場所(原文は not only a “terminal” と書かれています)」という意味も含んでいたのです、とあります。
「ああ、なるほど」と納得しました。
だからこそ、貿易実務に関わる立場だと逆に混乱するんだ、と。
DATからDPUへの切り替え|DAPとDPUの違いとは?【 INCOTERMS 2020 】
インコタームズ2020の全体像を見渡したとき、最も大きな変更はこの DPU の導入でしょう。
DAT から DPU に名前が変わっただけではなく、インコタームズ2020での順番も、表や説明、記述はすべて……CIP/DAP/DPU/DDP となっています。
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DPU は DDP の次に「売主側がいろいろしなきゃいけない」条件です
貿易実務者の立場であれば、「ターミナル」という単語はどうしても CY(コンテナヤード)や CFS(コンテナフレートステーション)のことをイメージしがちです。
あるいは、Air Cargo Terminal(エアーカーゴターミナル) など。
何となく、字面(じづら)でわかった気になってしまう(もちろん、ぼくも同じです)。
しかし、インコタームズの『 Terminal (ターミナル)』は「双方合意したあらゆる場所」を指します。『ターミナル』は双方で合意した場所でしかありません。
したがい、2020年版では「 At Terminal 」ではなく「 At Place Unloaded」に変えたんだ、と理解できました。
そのあたりも、先ほどの導入部「 Introduction to INCOTERMS(R) 2020 」の No 74、75 に記載があります。
あらためて、手作りのINCOTERMS 2000/2010/2020 の一覧表の順番も見直ししました。
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ぼく自身、理解が浅かった。質問者の方、ありがとうございました。
【貿易】DATからDPUに切り替える時の注意点、ポイントとは
以上の状況からすれば、従来から DAT で契約していた案件を DPU に変更することはなんら問題がないのですけれど、少しだけ、実務的な観点で補足しましょう。
DAP や DPU (旧 DAT )を考えている時点で、輸送がそれほど難しくない、特に重量物でもない、おそらくコンテナに入る程度の一般的な貨物(衣類や家電など)だと想像します。
そんな貿易実務者に対して、インコタームズ2020の公式本ははっきりと書いてくれています。
DPU について解説している箇所の一節です。
だから、金銭的な面でもそうですが、「売主」が積み降ろしの手配(コントロール)をできない状況であれば、DPU を使わずに DAP を使うべきです。
というか、使わざるを得ません。
現地でいくら荷役(にやく)の費用を請求されるかさえ、よくわからないんですから。
DAP と DPU の使い分けは、基本、この積み降ろしの手配をどちらがするか、の一点です。
あるいは、「 DDP までは対応できないけど、お客様(買主側)は貿易について不慣れのようですから、こちら(売主側)でできることは全部しますね」といったスタンスの売主が使う、とも言えるでしょうか。
ですから、重量物など、現地(輸入後の合意したどこかの場所)で特殊な装置や車両が必要な貨物なのに、「売主」が荷下ろし負担をするのは理不尽だし、トータルのコストを考えても無駄でしょう。
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もちろん、アマゾンみたいに自社で輸送していて客先に運賃を知られたくない、なんてケースもあるでしょうけどね。
そういう意味では、やはり重量物や特殊な貨物(特殊なコンテナを使う装置の輸送など)は D のグループは使わず、CIP までにとどめるのが無難であるし、双方、コストダウンや合理化を進めやすいだろう、と思います。
特に、買主側がいろいろと比較検討できるのであれば、ね。
たとえば、自社が買主で「 DPU で買えるから楽でいいわ、ラッキー」なんて思っていても、実は FCA を検討するだけで、大きなコストダウンにつながるかも知れませんよ。
DPU条件 や DAP条件で保険をかけるときはどうするか

現在、貿易実務をされている方は当然、ご存じだと思いますが、念のために触れておきます。
各種保険会社が CIF 向けに用意している「(貨物)海上保険」という商品があります。
各社、それらの商品には、輸入地の内地(陸送した後の引き渡し場所)まで保険を掛けられるオプションが用意されています。
DPU や DAP で保険付保を買主から求められた場合には、そのオプションを使いましょう。
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相談するのに遠慮や心配は要りません。
保険の営業職の人はよくわかっていますから、大丈夫です。
DPU も DAP も、実は保険をどちらがどのように掛けるかどうかは双方で決める条件ですけれど、DPU や DAP で契約するくらいですから、おそらく買主は保険を掛けません。
無保険になるゾーンが生じないように注意しましょう。
INCOTERMS 2020の日本語対訳版が出ました
最後に、今回の内容を簡単におさらいしておきましょう。
- DATからDPUへの切り替え|DAPとDPUの違いとは?【 INCOTERMS 2020 】
- 【貿易】DATからDPUに切り替える時の注意点、ポイントとは
- DPU条件 や DAP条件で保険をかけるときはどうするか
INCOTERMS 2020の日本語対訳版が商業会議所から出版されました。
英語版は勉強を兼ねて9月のプレスリリース直後に電子書籍版で買いましたけども、対訳版まで自分のポケットマネーで買うのはしんどいので、職場で用意してもらおうと思っています。
国際商業会議所 日本委員会ではセミナーも開催していますから、東京にアクセスしやすい地域の方はご検討ください。
今後、ぼくのような地方に住む者でも、簡単に情報にアクセスできる環境が整うと嬉しいな、と思います。
なお、INCOTERMS 2020 のまとめはこちらに用意しています。
英語版で学んだことを整理しているので、コメント、ご指摘など歓迎します。





